行政法

【重要判例】横浜市立保育園廃止処分取消訴訟 - 条例により保育園が突然廃止!?「そんな条例は無効だ」と訴えられるのか。

1. 事件の概要

横浜市は、同市が設置する保育所のうち4件の保育所を民営化の対象とするように条例を改正したところ、これにより右保育所は廃止された。

当該保育所で保育を受けていた児童又はその保護者である上告人らが、上記条例の制定行為は上告人らが選択した保育所において保育を受ける権利を違法に侵害するものであるなどと主張して、その取消を求めた。

2. 争点/論点

・本件の条例制定行為が、抗告訴訟の対象となる処分に該当するのか。

3. 条文

条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)

第3条 
1項 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2項 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

(取消判決等の効力)
第32条 処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。

4. 最高裁判決

上告代理人海渡雄一、同秦雅子、同猿田佐世の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について

本件は、被上告人がその設置する保育所を廃止する条例を制定したことについて、当該保育所で保育を受けていた児童又はその保護者である上告人らが、上記条例の制定行為は上告人らが選択した保育所において保育を受ける権利を違法に侵害するものであるなどと主張して、その取消し等を求めている事案である。

原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、第1審判決別表記載の4つの保育所(以下「本件各保育所」という。)を設置し運営していた。

(2) 上告人らは、本件各保育所で保育を受けていた児童又はその保護者であり、それぞれその入所承諾時に、上記別表中の「保育実施期限」欄記載の各日を終期とする保育の実施期間の指定を受けていた。なお、横浜市保育所保育実施条例施行規則(昭和62年横浜市規則第15号)によれば、保育所入所申込書には保育の実施を必要とする期間を記載し、保育所入所承諾書にも保育の実施期間を記載することとされている。

(3) 被上告人は、その設置する保育所のうち本件各保育所をいわゆる民営化の対象とすることとし、平成15年12月18日の横浜市議会の議決を経て、横浜市保育所条例の一部を改正する条例(平成15年横浜市条例第62号。以下「本件改正条例」という。)を制定し、同月25日、これを公布した。本件改正条例は、被上告人が設置する保育所の名称及び位置を定める横浜市保育所条例(昭和26年横浜市条例第7号)の別表から本件各保育所に係る部分を削除するものであり、平成16年4月1日から施行され、これにより本件各保育所は廃止された。

原審は、要旨次のとおり判断し、本件改正条例の制定行為は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとして、本件訴えのうち上記制定行為の取消しを求める部分を却下すべきものとした

保育所などの公の施設の設置及びその管理に関する事項を定める条例は、公の施設を利用する特定の個人の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの内容を定めるものではなく、一般的規範の性質を有するものであり、このことは、公の施設を廃止することを内容とする条例についても同様である。また、本件改正条例の制定をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することができるような事情も見当たらない。

しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

市町村は、保護者の労働又は疾病等の事由により、児童の保育に欠けるところがある場合において、その児童の保護者から入所を希望する保育所等を記載した申込書を提出しての申込みがあったときは、希望児童のすべてが入所すると適切な保育の実施が困難になるなどのやむを得ない事由がある場合に入所児童を選考することができること等を除けば、その児童を当該保育所において保育しなければならないとされている(児童福祉法24条1項~3項)。平成9年法律第74号による児童福祉法の改正がこうした仕組みを採用したのは、女性の社会進出や就労形態の多様化に伴って、乳児保育や保育時間の延長を始めとする多様なサービスの提供が必要となった状況を踏まえ、その保育所の受入れ能力がある限り、希望どおりの入所を図らなければならないこととして、保護者の選択を制度上保障したものと解される。そして、前記のとおり、被上告人においては、保育所への入所承諾の際に、保育の実施期間が指定されることになっている。このように、被上告人における保育所の利用関係は、保護者の選択に基づき、保育所及び保育の実施期間を定めて設定されるものであり、保育の実施の解除がされない限り(同法33条の4参照)、保育の実施期間が満了するまで継続するものである。そうすると、特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有するものということができる。

ところで、公の施設である保育所を廃止するのは、市町村長の担任事務であるが(地方自治法149条7号)、これについては条例をもって定めることが必要とされている(同法244条の2)。条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから、一般的には、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるからその制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる

また、市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が、当該保育所を廃止する条例の効力を争って、当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し、勝訴判決や保全命令を得たとしても、これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから、これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなり、処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある。

以上によれば、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

これと異なる見解の下に、本件訴えのうち本件改正条例の制定行為の取消しを求める部分を不適法として却下すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ない。しかしながら、現時点においては上告人ら係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるから、本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。そうすると、本件訴えのうち上記制定行為の取消しを求める部分を不適法として却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、結局、採用することができない。

なお、その余の上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・条例制定行為であっても具体的状況下において、抗告訴訟の対象となる処分に該当する余地がある。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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