刑事訴訟法

【重要判例】米子銀行強盗事件 - 職務質問に付随する所持品検査を拒否。警察官はどこまで調べられるのか。

1. 事件の概要

米子銀行にて強盗が発生し、手配人相に似た男2人(被告人ら)が見つかったのでに被告人ら対して警察官が職務質問を始めた。

警察官被告人らが持っていたボーリングバッグとアタッシュケースを開披するよう求めたが、頑なに拒まれた。

その後、被告人らを警察署に連行したのち、承諾の無いままボーリングバッグを開けたところ大量の紙幣が無造作に入っており、被害銀行の帯封の札束を確認したため、被告人らを緊急逮捕した。

裁判では、被告人ら意思に反して、ボーリングバッグを開披した行為が適法であるのかが問題となった。

2. 争点/論点

・本件において、被告人の明示の意思に反してボーリングバッグを開披した警察官の行為が職務質問に付随する行為として適法なものであるのか。

3. 条文

条文

警察官職務執行法
(質問)
第2条1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

4. 最高裁判決

 弁護人川端和治、同弘中惇一郎の上告趣意第一の二の(一)について
 所論は憲法31条、39条、73条6号但書、98条1項違反をいうが、爆発物取締罰則が日本国憲法施行後の今日においてもなお法律としての効力を保有しているものであることは当裁判所の判例とするところであるから(昭和23年(れ)第1140号同24年4月6日大法廷判決・刑集3巻4号456頁、昭和32年(あ)第309号同34年7月3日第二小法廷判決・刑集13巻7号1075頁参照)、所論は理由がない。

 同第一の二の(二)の第一について
 所論は憲法31条、36条違反をいうが、爆発物取締罰則1条に定める刑が残虐な刑罰といえないのみならず(最高裁昭和22年(れ)第323号同23年6月23日大法廷判決・刑集2巻7号777頁参照)、同条所定の行為に対し所定のような法定刑を定めることは立法政策の問題であって憲法適否の問題ではないから(最高裁昭和23年(れ)第1033号同年12月15日大法廷判決・刑集2巻13号1783頁、昭和46年(あ)第2179号同47年3月9日第一小法廷判決・刑集26巻2号151頁参照)、所論は理由がない。

 同第一の二の(二)の第二について
 所論は憲法19条、31条違反をいうが、爆発物取締罰則1条は、所定の目的で爆発物を使用した者を処罰するものであって、その思想、信条のいかんを問うものではなく、また、同条にいう「治安ヲ妨ケ」るの概念は不明確なものではないから(前掲昭和47年3月9日第一小法廷判決参照)、所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

 同第一の二の(二)の第三について
 所論は憲法31条、39条違反をいうが、爆発物取締罰則の規定のうち所論指摘のものは原判決の是認する第一審判決が適用していないものであり、また、本件に適用される同罰則1条及び3条の規定につきこれを合憲であるとした原判決の判断は正当であって、犯行後の法令の適用を許容した趣旨のものではないのであるから、所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

 同第二の二について
 所論のうち憲法31条、35条1項違反をいう点は、aの明示の意思に反してボーリングバッグを開披したb巡査長の行為を職務質問附随行為として適法であるとした原判決の判断は、警察官職務執行法(以下「警職法」という。)2条1項の解釈を誤り、ひいて憲法35条1項に違反し、違法収集証拠を本件の証拠とした点において憲法31条に違反する、というのである。

一 原判決の認定した事実及び原判決の是認した第一審判決の認定した事実によれば、本件の経過は次のとおりである。

(一)岡山県総社警察署巡査部長Cは、昭和46年7月23日午後2時過ぎ、同県警察本部指令室からの無線により、米子市内において猟銃とナイフを所持した4人組による銀行強盗事件が発生し、犯人は銀行から600万円余を強奪して逃走中であることを知った、

(二)同日午後10時30分ころ、2人の学生風の男が同県吉備郡a町b附近をうろついていたという情報がもたらされ、これを受けたC巡査部長は、同日午後11時ころから、同署員のb巡査長ら4名を指揮して、総社市CのD営業所前の国道三叉路において緊急配備につき検問を行った、

(三)翌24日午前0時ころ、タクシーの運転手から、「E線F駅附近で若い2人連れの男から乗車を求められたが乗せなかった。後続の白い車に乗ったかも知れない。」という通報があり、間もなく同日午前0時10分ころ、その方向から来た白い乗用車に運転者のほか手配人相のうちの2人に似た若い男が2人(被告人とa)乗っていたので、職務質問を始めたが、その乗用車の後部座席にアタッシュケースとボーリングバッグがあった、

(四)右運転者の供述から被告人aとを前記F駅附近で乗せ倉敷に向う途中であることがわかったが、被告人aとは職務質問に対し黙秘したので容疑を深めた警察官らは、前記営業所内の事務所を借り受け、両名を強く促して下車させ事務所内に連れて行き、住所、氏名を質問したが返答を拒まれたので、持っていたボーリングバッグとアタッシュケースの開披を求めたが、両名にこれを拒否され、その後30分くらい、警察官らは両名に対し繰り返し右バッグとケースの開披を要求し、両名はこれを拒み続けるという状況が続いた、

(五)同日午前0時45分ころ、容疑を一層深めた警察官らは、継続して質問を続ける必要があると判断し、被告人については3人くらいの警察官が取り囲み、aについては数人の警察官が引張るようにして右事務所を連れ出し、警察用自動車に乗車させてG警察署に同行したうえ、同署において、引き続いて、C巡査部長ら被告人を質問し、b巡査長らaを質問したが、両名は依然として黙秘を続けた、

(六)b巡査長は、右質問の過程で、aに対してボーリングバッグとアタッシュケースを開けるよう何回も求めたが、aがこれを拒み続けたので、同日午前1時40分ころ、aの承諾のないまま、その場にあったボーリングバッグのチャックを開けると大量の紙幣が無造作にはいっているのが見え、引き続いてアタッシュケースを開けようとしたが鍵の部分が開かず、ドライバーを差し込んで右部分をこじ開けると中に大量の紙幣がはいっており、被害銀行の帯封のしてある札束も見えた、

(七)そこで、b巡査長aを強盗被疑事件で緊急逮捕し、その場でボーリングバッグ、アタッシュケース、帯封1枚、現金等を差し押えた、

(八)C巡査部長は、大量の札束が発見されたことの連絡を受け、職務質問中の被告人を同じく強盗被疑事件で緊急逮捕した、というのである。

 警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であって、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もっとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。

 これを本件についてみると、所論のb巡査長の行為は、猟銃及び登山用ナイフを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、深夜に検問の現場を通りかかったa及び被告人の両名が、右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあったのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであって、所持品検査の緊急性、必要性が強かった反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるからこれを警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である。

 よって、所論違憲の主張は、前提を欠き、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

 同第二の三について
 所論のうち憲法31条、35条1項違反をいう点は、アタッシュケースをこじ開けた前示b巡査長の行為を警職法に違反するものと認めながら、アタッシュケース及び在中の帯封の証拠能力を認めた原判決の判断は、上記憲法の規定に違反する、というのである。

 しかし、前記ボーリングバッグの適法な開披によりすでにa緊急逮捕することができるだけの要件が整いしかも極めて接着した時間内にその現場で緊急逮捕手続が行われている本件においては、所論アタッシュケースをこじ開けた警察官の行為は、a逮捕する目的で緊急逮捕手続に先行して逮捕の現場で時間的に接着してされた捜索手続と同一視しうるものであるから、アタッシュケース及び在中していた帯封の証拠能力はこれを排除すべきものとは認められず、これらを採証した第一審判決に違憲、違法はないとした原判決の判断は正当であって、このことは当裁判所昭和31年(あ)第2863号同36年6月7日大法廷判決(刑集15巻6号915頁)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない。その余の所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

 なお、Hから押収した証拠物に関する所論は、具体的な理由の記載を欠くので、不適法である。

 同第三について
 所論は、事実誤認の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

 同第四について
 所論は、事実誤認、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
 よって、刑訴法408条、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・職務質問に附随して行う所持品検査は、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される場合がある。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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