刑事訴訟法

【重要判例】約束による自白の証拠能力 - 起訴猶予の約束と引き換えに自白したが検察官に騙された!?

1. 事件の概要

検察官から、勾留中の被告人に対し、自供すれば起訴猶予処分にするから自供するように勧めるよう言われた弁護士が、被告人と面会し、検察官と話した内容を告げた。

その後、取調べにおいて被告人は犯罪の内容を自供した。

裁判では、起訴猶予処分とすることを条件に自供をするよう言われた状況下で為された自白の証拠能力が問題となった。

2. 争点/論点

・検察官からの自白をすれば起訴をしないとの約束を信じたことにより、被告人が自白した場合、当該自白に証拠能力があるのか。

3. 条文

条文

刑事訴訟法
第319条1項 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

4. 最高裁判決

 弁護人司波実の上告趣意第一点のうち、判例違反をいう点について。

 論旨は、原判決が、被告人司法警察員および検察官に対する各供述調書の任意性の有無について、被告人に賄賂を贈ったAの弁護人である弁護士岡崎耕三が、
「昭和36年8月28日岡山地方検察庁において本件の担当検察官である三笠検事に面談した際、被告人のため陳弁したところ、同検事より、被告人が見えすいた虚構の弁解をやめて素直に金品収受の犯意を自供して改悛の情を示せば、検挙前金品をそのまま返還しているとのことであるから起訴猶予処分も十分考えられる案件である旨内意を打ち明けられ、且つ被告人に対し無益な否認をやめ卒直に真相を自供するよう勧告したらどうかという趣旨の示唆を受けたので、被告人の弁護人である弁護士楠朝男を伴って児島警察署へ赴き留置中の被告人に面接し、『検事は君が見えすいた嘘を言っていると思っているが、改悛の情を示せば起訴猶予にしてやると言っているから、真実貰ったものなら正直に述べたがよい。馬鹿なことを言って身体を損ねるより、早く言うて楽にした方がよかろう。』と勧告したところ、被告人は、同弁護士の言を信じ起訴猶予になることを期待した結果、その後の取調べ即ち同日第2回目の取調べから順次金品を貰い受ける意図のあったことおよび金銭の使途等について自白するに至ったものである。」
旨の事実を認定したうえ、「自白の動機が右のような原因によるものとしても、捜査官の取調べそれ自体に違法が認められない本件においては、前記各供述調書の任意性を否定することはできない。」と判示したのが、所論引用の昭和29年3月10日福岡高等裁判所判例(高裁刑事判決特報26号71頁)に相反するというのである。

 よって案ずるに、右福岡高等裁判所の判決は、所論の点について、「検察官の不起訴処分に附する旨の約束に基く自白は任意になされたものでない疑のある自白と解すべきでこれを任意になされたものと解することは到底是認し得ない。従って、かかる自白を採って以て罪証に供することは採証則に違反するものといわなければならない。」と判示しているのであるから、原判決は、右福岡高等裁判所の判例と相反する判断をしたこととなり、刑訴法405条3号後段に規定する、最高裁判所の判例がない場合に控訴裁判所である高等裁判所の判例と相反する判断をしたことに当るものといわなければならない。そして、本件のように、被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解するのが相当である。

 しかしながら、右被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書を除外しても、第一審判決の挙示するその余の各証拠によって、同判決の判示する犯罪事実をゆうに認定することができるから、前記判例違反の事由は、同410条1項但書にいう判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合に当り、原判決を破棄する事由にはならない。

小話

「自白」の証拠能力は否定されたものの、結局その他の証拠により結局犯罪が認定されてしまいました。

 同第一点のその余は、単なる法令違反の主張であり、同第二、三点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも上告適法の理由に当らない。

 弁護人小山昇の上告趣意第一、二、四ないし六点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、同第三、七、八点は、単なる法令違反の主張であって、いずれも上告適法の理由に当らない。

 また、記録を調べても刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

 よって、同408条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠く


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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