行政法

【重要判例】実子あっせん医師事件

1. 事件の概要

産科、婦人科、肛門科の医院を開設していた医師(上告人)は、医師会(被上告人)より人工妊娠中絶を行うことが出来る医師に指定されていた。

上告人は、中絶の時期を逸しながらその施術を求める女性に出産させ、子供を欲しがっている女性が出産したとする虚偽の出産証明書を発行する実子あっせん行為を行っていた。

上告人は、医師法違反の嫌疑により告発され、医師法違反、公正証書原本不実記載・同行使の罪により、罰金20万円に処する旨の略式命令を受けた。

これを受けて被上告人は、上告人に対し、指定医師の指定を取り消す処分をした。

それに対し、上告人は、被上告人に対し指定医師の指定申請をしたところ、被上告人は、当該申請を却下をした。

2. 争点/論点

・本件取消処分及び本件却下処分は違法なものであるのか。

3. 条文

条文

 優生保護法
(人工妊娠中絶の審査)
第14条 地区優生保護委員会は、前条第1項の規定による申請を受けたときは、命令の定める期間内に、同条第1項に規定する要件を具えているかどうか及び未成年者についてはその同意が他から強制されたものでないかどうかを審査の上、人工妊娠中絶を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者に通知する。

4. 最高裁判決

 上告代理人佐々木泉の上告理由第一点及び第三点並びに上告人の上告理由について

 原審の適法に確定したところによれば、
(1) 上告人は、昭和25年に医師免許を付与され、昭和33年10月以降石巻市において、産科、婦人科、肛門科の医院を開設している医師である、

(2) そして、昭和28年に被上告人社団法人甲医師会(以下「被上告人医師会」という。)から、優生保護法14条1項により人工妊娠中絶(以下「中絶」という。)を行いうる医師(以下「指定医師」という。)の指定を受け、それ以降、途中1年間を除き、2年ごとの指定の更新により、最終的には、昭和51年11月1日付をもって指定を受けた、

(3) 上告人は、中絶の時期を逸しながらその施術を求める女性に対し、勧めて出産をさせ、当該嬰児を子供を欲しがっている他の婦女が出産したとする虚偽の出生証明書を発行することによって、戸籍上も右婦女の実子として登載させ、右嬰児をあっせんする、いわゆる赤ちゃんあっせん(以下「実子あっせん行為」という。)を行ってきたが、上告人が昭和48年4月新聞等を通じてこのことを公表するまでにあっせんした数は約100件に及んだ、

(4) 実子あっせん行為についての問題点が指摘されたことなどから、上告人は、昭和49年3月、指定医師の団体である社団法人D協会の全理事会において、今後実子あっせん行為は繰り返さない旨言明したが、その後も、中絶時期を逸したにもかかわらず中絶を望む妊婦は、胎児ないし嬰児に対して強い殺意を抱いているので、上告人提唱のいわゆる実子特例法が制定されるまでは、実子あっせん行為は嬰児等の生命を救うための緊急避難行為であるとしてこれを続け、結局、昭和48年4月以降更に約120件の実子あっせん行為をした

(5) そのうちの一例である昭和50年12月にした実子あっせん行為につき、上告人は、昭和52年8月31日付でE会長から医師法違反等の嫌疑により仙台地方検察庁告発され、昭和53年3月1日仙台簡易裁判所において、犯罪事実の要旨を「上告人は、(一) 昭和50年12月18日ころ、上告人方医院において、甲女に対し、自ら同女の出産に立ち会わないのに、同女が男子を出産した旨の出生証明書を交付し(二) 甲夫婦と共謀して、乙女が出産した男子を甲夫婦の実子として届け出ようと企て、同月22日ころ、甲女が市役所係員に、右男子が甲夫婦間の長男として出生した旨の出生届と前記出生証明書を提出して虚偽の申立をし、情を知らない右係員らをして公正証書の原本である戸籍簿にその旨不実の記載をなさしめ、これを真正なものとして市役所に備えつけさせて行使した」とする医師法違反、公正証書原本不実記載・同行使の罪により、罰金20万円に処する旨の略式命令を受け、右裁判は正式裁判に移行することなく確定した、

(6) 被上告人医師会は、昭和53年5月24日付で上告人に対し、昭和51年11月1日付の指定医師の指定を取り消す旨の本件取消処分をしたが、その理由の要旨は、右罰金刑の確定とその裁判の違法事実に徴するとき、上告人は指定医師として不適当と認められるというものである、

(7) 上告人は、昭和53年10月1日被上告人医師会に対し指定医師の指定申請をしたところ、被上告人医師会は、同月30日付で、本件取消処分と同じ理由により、右申請を却下する旨の本件却下処分をした、というのである。

 右事実関係に基づいて、上告人が行った実子あっせん行為のもつ法的問題点について考察するに、実子あっせん行為は、医師の作成する出生証明書の信用を損ない戸籍制度の秩序を乱し不実の親子関係の形成により、子の法的地位を不安定にし未成年の子を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならない旨定めた民法798条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、近親婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、将来子にとって親子関係の真否が問題となる場合についての考慮がされておらず、子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。

したがって、実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的でなされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反するものというべきであり、本件取消処分の直接の理由となった当該実子あっせん行為についても、それが緊急避難ないしこれに準ずる行為に当たるとすべき事情は窺うことができない。しかも、上告人は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、それによる弊害、その社会的影響を不当に軽視し、これを反復継続したものであって、その動機、目的が嬰児等の生命を守ろうとするにあったこと等を考慮しても上告人の行った実子あっせん行為に対する少なからぬ非難は免れないものといわなければならない

そうすると、被上告人医師会が昭和51年11月1日付の指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるものというべきである

したがって、本件取消処分及びそれと同じ理由による本件却下処分に違法な点はなく、右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 上告代理人佐々木泉の上告理由第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 よって、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的でなされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反する。

・指定医師の指定の撤回によって医師(上告人)の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている医師会は、その権限において医師(上告人)に対する右指定を撤回することができる。


この記事が良いと思ったら以下のリンクからサイト運営費用の寄付をお願いします。

LegaLabへ寄付する

  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

-行政法
-