行政法

【重要判例】個人タクシー事件 - 不公正な審査手続きに基づく処分がされた!?

1. 事件の概要

東京陸運局長は道路運送法3条2項3号に定める一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制の個人タクシー事業)の免許に関する権限を有していたところ、輸送需要の増加に伴い、個人タクシー事業の増車を決定した。

これに伴い、東京陸運局長は個人タクシー事業の免許の許否を判断する際の聴聞において使用する審査基準を設定した。

被上告人が、個人タクシー事業の免許申請をしたところ、受理され聴聞が行われたが、聴聞の結果、他業関係(転業の難易)および運転歴(軍隊における運転経験をも含む)を理由に申請が却下された。

しかし、聴聞担当官は審査の基準事項が存在することを知らず、被上告人に対する聴聞の際に、聴聞担当官から洋品店を廃業してタクシー事業に専念する意思があるかどうか軍隊における運転経験があるかどうか等について聴聞されることは無かった。

2. 争点/論点

・本件において実施された聴聞手続は不公正なものであり、免許の申請却下処分が違法なものであるのか。

3. 条文

条文

道路運送法
(許可基準)

第6条 国土交通大臣は、一般旅客自動車運送事業の許可をしようとするときは、次の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならない。
 当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること。
 前号に掲げるもののほか、当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること。
 当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること。

4. 最高裁判決

 上告人指定代理人鰍沢健三(名義)、同上野国天、同藤井康夫、同田中志満夫、同高橋勝義、同足立高八郎の上告理由について。
 所論は、要するに、原判決は、道路運送法に基づく自動車運送事業および聴聞の各性質について、同法の解釈、適用を誤り、また、本件において実施された聴聞手続を不公正とした判断および右不公正が本件処分の違法事由となるとした判断において、それぞれ理由そごの違法を犯している、というのである。

 原審の適法に確定した事実は、おおむね、つぎのとおりである。
 (1) 上告人は道路運送法3条2項3号に定める一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制の個人タクシー事業)の免許に関する権限を有するところ、昭和34年8月11日、当面の輸送需要をみたすため一般乗用自動車の増車を決定、そのうち、個人タクシーのための増車数を983輛と定め、これに対応するものとして、同年9月10日までに6630件の個人タクシー事業の免許申請を受理し、被上告人は同年8月6日免許を申請して受理された。

 (2) 上告人は、聴聞による調査結果に基づき免許の許否を決するため、担当課長はじめ約10名の係長の協議により、道路運送法6条1項各号の趣旨を具体化した審査基準として、第一審判決別表のとおり、17の項目および内容につき、審査基準欄記載のような基準事項(第一次と第二次の審査基準があり、前者をみたした者について後者を適用する)を設定し、一方、右基準事項に基づいて聴聞概要書調査書と題する書面(以下聴聞書という。)を作成し、その項目および聴聞内容の各欄には、右第一審判決別表の調査事項の項目および内容の各欄に掲げた事項とほぼ同一のもの(ただし、右別表6の内容欄に記載してある他業関係は掲げられていない)を記載して、聴聞担当官約20名が各申請人について右聴聞書の各項目ごとに聴聞を行ってその結果を記入することとし、昭和34年9月中旬から同35年3月までの間聴聞を実施し、被上告人に対しては、昭和35年2月11日に聴聞を行った

 (3) 上告人は、右聴聞手続と並行して、差し迫った年末の輸送事情緩和のため、昭和34年12月2日、前記基準中、優マーク経験年数10年以上年令40才以上の基準に該当する者のうち、免許することに全く問題がないと思われるもの73名を第一次分として免許し、ついで、前記聴聞の結果につき基準を適用して審査した末、昭和35年7月2日第二次分として611名を免許したが、被上告人については、前記第一審判決別表の第一次審査基準のうち、6の「本人が他業を自営している場合には転業が困難なものでないこと」および7の「運転歴7年以上のもの」に該当しないとして、そのことから道路運送法6条1項3号ないし5号の要件をみたさないものと認め、右7月2日付で申請を却下した

 (4) 聴聞担当官のうち前記基準の協議に関与した7,8 名の係長以外のものは、被上告人の担当官をも含め、前記第一審判決別表の基準事項の存在すら知らず、聴聞開始前に上司から聴聞書の項目および聴聞内容について説明をうけただけで、右基準事項については何らこれを知らされることなく、被上告人の聴聞担当官にあっても、被上告人申請の却下事由となった他業関係(転業の難易)および運転歴(軍隊における運転経験をも含む)に関しても格別の指示はなされず、したがって、右担当官は、被上告人洋品店を廃業してタクシー事業に専念する意思があるかどうか軍隊における運転経験があるかどうか等の点について思いいたらず、これらの点を判断するについて必要な事実については何ら聴聞が行われなかった、というのである。

おもうに、道路運送法においては、個人タクシー事業の免許申請の許否を決する手続について、同法122条の2聴聞の規定のほか、とくに、審査、判定の手続、方法等に関する明文規定は存しない。

しかし、同法による個人タクシー事業の免許の許否は個人の職業選択の自由にかかわりを有するものであり、このことと同法6条および前記122条の2の規定等とを併せ考えれば、本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続をとってはならないものと解せられる。すなわち、右6条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。免許の申請人はこのような公正な手続によって免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によって免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

 原審の確定した事実に徴すれば、被上告人の免許申請の却下事由となった他業関係および運転歴に関する具体的審査基準は、免許の許否を決するにつき重要であるか、または微妙な認定を要するものであるのみならず、申請人である被上告人自身について存する事情、その財産等に直接関係のあるものであるから、とくに申請の却下処分をする場合には、右基準の適用上必要とされる事項については、聴聞その他適切な方法によって、申請人に対しその主張と証拠の提出の機会を与えなければならないものと認むべきところ、被上告人に対する聴聞担当官は、被上告人の転業の意思その他転業を困難ならしめるような事情および運転歴中に含まるべき軍隊における運転経歴に関しては被上告人に聴聞しなかったというのであり、これらの点に関する事実を聴聞し、被上告人にこれに対する主張と証拠の提出の機会を与えその結果をしんしやくしたとすれば、上告人がさきにした判断と異なる判断に到達する可能性がなかったとはいえないであろうから、右のような審査手続は、前記説示に照らせば、かしあるものというべく、したがって、この手続によってされた本件却下処分は違法たるを免れない

 以上説示するところによれば、本件処分を取り消すべきものとした原判決の判断は正当として首肯することができ、所論は、ひっきょう、以上の判示と異った見解に立脚して原判決を攻撃するものというべきである。所論はすべて理由がなく、採用することができない。

 よって、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

 ・道路運送法6条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならず、これに反する審査手続により免許申請を却下したときは、公正な手続によって免許申請の許否につき判定を受けるべき申請人の法的利益を侵害したものとして、当該却下処分は違法となる。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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