行政法

【重要判例】水道料金を改訂する条例の制定と抗告訴訟の対象

1. 事件の概要

山梨県の旧高根町が水道料金に係る条例を改正したところ、水道料金の基本料金について同町内に別荘を所有する者そうでない者との間に大きな格差が生じた

別荘を所有する者らは、基本料金の格差が不平等であるとして、条例及び施行規則等の無効確認の訴えを起こした。

2. 争点/論点

地方公共団体の水道事業において供給規程に係る条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるのか

3. 条文

条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第3条4項 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

4. 最高裁判決

第1 事案の概要
原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人らは、いずれも山梨県の旧高根町の住民基本台帳に記録されていなかった者であるが、同町の区域内別荘を所有し、同町との間で給水契約を締結していた。

(2) 旧高根町の住民及び同町の区域内に別荘を所有していた者は、従前、同町や簡易水道組合等が経営する簡易水道から給水を受けていたが、同町は、昭和63年に高根町清里の森簡易水道事業を除く水道事業を町営水道に統合した。同町は、この統合に際し、高根町簡易水道事業給水条例(昭和63年高根町条例第8号。以下「本件条例」という。)を制定した。本件条例制定当時の水道料金は、原判決別紙料金表1のとおりであった。

同町は、平成5年7月1日、本件条例の一部を改正する条例(平成5年高根町条例第11号)を施行し、高根町清里の森簡易水道事業を町営水道に統合し、同町の簡易水道事業の給水区域を同町の区域全域とするとともに、水道料金を原判決別紙料金表2のとおり改定した。

同町は、同6年4月1日、本件条例の一部を改正する条例(平成6年高根町条例第4号)を施行し、水道料金を原判決別紙料金表3のとおり改定し、さらに、同10年4月1日、本件条例の一部を改正する条例(平成10年高根町条例第24号。以下「本件改正条例」という。)を施行し、水道料金を原判決別紙料金表4(本件改正条例による改正後の本件条例別表第1)のとおり改定した。

本件改正条例による水道料金の改定の結果、水道メーターの口径が13mmの場合を例にすると、同町の住民基本台帳に記録されていない別荘に係る給水契約者(以下「別荘給水契約者」という。)については1か月の基本料金(基本水量10㎥までの料金)が3000円から5000円に増額されたのに対し、それ以外の給水契約者(臨時給水に係る給水契約者を除く。以下「別荘以外の給水契約者」という。)については上記の基本料金が1300円から1400円に増額されたにとどまるなど、別荘給水契約者と別荘以外の給水契約者との間に基本料金の大きな格差を生じた。

(3) 旧高根町は、給水契約者から水道料金等を徴収し、これを簡易水道事業の費用に充てていたが、支出額が収入額を上回っていたため、その補てんのため毎年1億数千万円を一般会計から繰り入れてきた。平成10年度においては、本件改正条例による水道料金の改定の結果、収入は年間で約4659万円増加したものの、なお一般会計から約9454万円を繰り入れ、同年度末における一般会計からの繰入れの累計額は13億円余りとなった。

(4) 旧高根町の簡易水道事業においては、平成8年度を例にすると、別荘給水契約者は給水契約者全体のうち約30.4%(1324件)を占めていたが、別荘給水契約者の水道使用は夏季等の一時期に集中し、その年間水道使用量は同町の簡易水道事業における総水道使用量の約4.7%を占めるにすぎなかった。また、同年度において、水道料金を年間50万円以上支払っている大口需用者は29件あり、その年間水道使用量は同町の簡易水道事業における総水道使用量の約20.3%を占めていた。

(5) 平成10年4月から同12年12月までの被上告人らの旧高根町に対する水道料金の支払状況は、原判決別紙水道料金支払状況表記載のとおりである。

(6) 旧高根町は、平成11年7月、未払水道料金がある者に対し給水停止を執行する旨の文書を送付した。

(7) 平成16年11月1日、旧高根町を含む7町村が合併して新たな市として上告人が設置され、上告人が旧高根町の権利義務を承継した。

本件は、被上告人らが、本件改正条例による改正後の本件条例別表第1(以下「本件別表」という。)は別荘給水契約者を不当に差別するものであると主張して、行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えとして本件別表が無効であることの確認を求めるとともに、別荘給水契約者に係る本件別表所定の基本料金と本件改正条例による改定前の基本料金との差額分に関し、未払水道料金の債務不存在確認と支払済みの水道料金相当額の不当利得返還又は不法行為による損害賠償を求め、さらに、被上告人らのうち未払水道料金がある者に対する簡易水道の給水停止の禁止等を求めた事案である。

第2 上告代理人橋本勇、同渡辺和廣の上告受理申立て理由第3について
原審は、要旨次のとおり説示し、本件別表の無効確認を求める被上告人らの訴えは適法なものであると判断した。
地方公共団体の水道事業においては、水道需用者は、供給規程を定める条例の施行によってその後にされる個別的行政処分を経ることなく、その条例の内容に従った給水契約上の義務を課されることになるから、供給規程に係る条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。そして、水道需用者は、供給規程のうち水道料金の算定基準を定め、又は変更した部分が憲法その他の法令に抵触するとして争う場合には、抜本的な紛争解決のために、当該供給規程に係る条例の規定が無効であることの確認を求めて行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えを提起することができる

しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本件別表の無効確認を求める被上告人らの訴えは、本件改正条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提に、行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えとして、本件改正条例により定められた本件別表が無効であることの確認を求めるものである。しかしながら、抗告訴訟の対象となる行政処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいうものである本件改正条例は、旧高根町が営む簡易水道事業の水道料金を一般的に改定するものであって、そもそも限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、本件改正条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである

以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。なお、被上告人らは、当審において、本件別表の無効確認を求める被上告人らの訴えは抗告訴訟として不適法であるとしても行政事件訴訟法4条の当事者訴訟として適法である旨新たに主張しているが、抗告訴訟としての無効確認の訴えと当事者訴訟としての無効確認の訴えは別個の訴えであるところ、被上告人らは、抗告訴訟として本件別表の無効確認を求める訴えを提起していたものであり、当事者訴訟としてこれを提起していたものではないから、被上告人らの主張はその前提を欠くものであって失当である。

第3 上告代理人橋本勇、同渡辺和廣の上告理由及び上告受理申立て理由第4ないし第7、第9について
普通地方公共団体が経営する簡易水道事業の施設は地方自治法244条1項所定の公の施設に該当するところ、同条3項は、普通地方公共団体は住民が公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いをしてはならない旨規定している

ところで、普通地方公共団体が設置する公の施設を利用する者の中には、当該普通地方公共団体の住民ではないが、その区域内に事務所、事業所、家屋敷、寮等を有し、その普通地方公共団体に対し地方税を納付する義務を負う者など住民に準ずる地位にある者が存在することは当然に想定されるところである。そして、同項が憲法14条1項が保障する法の下の平等の原則を公の施設の利用関係につき具体的に規定したものであることを考えれば、上記のような住民に準ずる地位にある者による公の施設の利用関係に地方自治法244条3項の規律が及ばないと解するのは相当でなく、これらの者公の施設を利用することについて、当該公の施設の性質やこれらの者と当該普通地方公共団体との結び付きの程度等に照らし合理的な理由なく差別的取扱いをすることは、同項に違反するものというべきである

別荘給水契約者は、旧高根町の区域内に生活の本拠を有しないという点では同町の住民とは異なるが、同町の区域内に別荘を有し別荘を使用する間は同町の住民と異ならない生活をするものであることなどからすれば、同町の住民に準ずる地位にある者ということができるから、本件改正条例による別荘給水契約者の基本料金の改定が地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たるかどうかについて、以下検討する

上告人主張によれば、旧高根町は、本件改正条例による水道料金の改定において、別荘以外の給水契約者(これにはホテル等の大規模施設に係る給水契約者も含まれる。)の1件当たりの年間水道料金の平均額別荘給水契約者1件当たりの年間水道料金の負担額がほぼ同一水準になるようにするとの考え方に立った上、別荘給水契約者においてはおおむねその水道料金が基本料金の範囲内に収まっているため基本料金の額により負担額の調整をすることとし、本件別表のとおり別荘給水契約者の基本料金を定めたというのである。

一般的に、水道事業においては、様々な要因により水道使用量が変動し得る中で最大使用量に耐え得る水源と施設を確保する必要があるのであるから、夏季等の一時期に水道使用が集中する別荘給水契約者に対し年間を通じて平均して相応な水道料金を負担させるために、別荘給水契約者の基本料金を別荘以外の給水契約者の基本料金よりも高額に設定すること自体は、水道事業者の裁量として許されないものではない。しかしながら、前記事実関係等によれば、旧高根町の簡易水道事業においては、平成8年度において、水道料金を年間50万円以上支払っている大口需用者が29件あり(記録によれば、これらの大口需用者はいずれも別荘以外の給水契約者であることがうかがわれる。)、その年間水道使用量は同町の簡易水道事業における総水道使用量の約20.3%に当たり、一方、別荘給水契約者の件数は1324件であり、その年間水道使用量は同町の簡易水道事業における総水道使用量の約4.7%を占めるにすぎないというのである。このように給水契約者の水道使用量に大きな格差があるにもかかわらず、上告人の主張によれば、本件改正条例による水道料金の改定においては、ホテル等の大規模施設に係る給水契約者を含む別荘以外の給水契約者の1件当たりの年間水道料金の平均額と別荘給水契約者の1件当たりの年間水道料金の負担額がほぼ同一水準になるようにするとの考え方に基づいて別荘給水契約者の基本料金が定められたというのである。公営企業として営まれる水道事業において水道使用の対価である水道料金は原則として当該給水に要する個別原価に基づいて設定されるべきものであり、このような原則に照らせば、上告人主張に係る本件改正条例における水道料金の設定方法は、本件別表における別荘給水契約者別荘以外の給水契約者の間の基本料金の大きな格差を正当化するに足りる合理性を有するものではない。また、同町において簡易水道事業のため一般会計から毎年多額の繰入れをしていたことなど論旨が指摘する諸事情は、上記の基本料金の大きな格差を正当化するに足りるものではない。

そうすると、本件改正条例による別荘給水契約者の基本料金の改定は、地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たるというほかはない。

以上によれば、本件改正条例のうち別荘給水契約者の基本料金を改定した部分は、地方自治法244条3項に違反するものとして無効というべきである。そうすると、憲法14条1項違反等の点について判断するまでもなく、被上告人らは別荘給水契約者に係る本件別表所定の基本料金と本件改正条例による改定前の基本料金との差額分について支払義務を負うものではないから、同差額分に関する未払水道料金の債務不存在確認及び支払済みの水道料金相当額の不当利得返還並びに被上告人らのうち未払水道料金がある者に対する簡易水道の給水停止の禁止を求める被上告人らの請求を認容した原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

第4 結論
以上説示したところによれば、原判決のうち本件別表の無効確認請求に関する部分は破棄を免れず、上記請求に係る被上告人らの訴えを却下すべきであり、上告人のその余の上告は棄却すべきである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官古田佑紀の補足意見がある。

補足意見

■裁判官古田佑紀の補足意見は、次のとおりである。
私は、法廷意見と見解をともにするものであるが、地方自治法244条3項の適用について補足的に意見を述べたい。
同項は、公の施設の利用について、「不当な差別的取扱い」を禁止するという当然の事理を明らかにした規定であり、その性質上一般的、包括的な確認的規定であることからして、ある地方公共団体の区域内に生活の本拠を有する者ではなくても、そこに固定した生活等の拠点を有し、継続的な活動を予定している者であって、そのことの故に当該地方公共団体における租税等を負担すべき立場にあるようなものも、同項にいう「住民」に含まれるものと考える。

被上告人らは、旧高根町内に別荘を所有し、夏季等の一時期とはいえ同所において生活をすることを予定しており、そのことの故に固定資産税や均等割部分ではあるが住民税を負担していることからすれば、これらの者についても、同項により「不当な差別的取扱い」が禁止されるものというべきである。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・普通地方公共団体が営む水道事業に係る条例所定の水道料金を改定する条例の制定行為は、同条例が上記水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、同条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないという事情の下では、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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