会社法

【重要判例】アパマンショップ株主代表訴訟事件

1. 事件の概要

不動産賃貸あっせんのフランチャイズ事業を展開する会社が、傘下のA社とB社を合併させるためA社を完全子会社にすることを計画した。

A社株の約66.7%の株を参加人が所有していたが、残りの株を取得する株主から買い取る必要が生じた。

参加人の取締役であったY1,Y2,Y3はAの株主である重要な加盟店等との関係を良好に保つ必要性等を考慮して1株5万円で買い取ることを経営会議にて決定した。

当該決定の内容には弁護士からは経営判断の問題であるから法的な問題はないと助言されていた。

決定に従いA社株の買取を実施したところ、参加人の株主は、当該株式の買取について取締役としての善管注意義務違反があると主張し、損害賠償を求めた。

2. 争点/論点

・株式を1株当たり5万円の価格で参加人が買い取る旨の決定をしたことにつき、取締役としての善管注意義務違反があったのか?

3. 条文

条文

会社法第423条1項 
・取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

会社法第847条1項 
・六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。)若しくは清算人(以下この節において「発起人等」という。)の責任を追及する訴え、第百二条の二第一項、第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十三条の二第一項若しくは第二百八十六条の二第一項の規定による支払若しくは給付を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。

4. 最高裁判決

上告代理人手塚裕之ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について

4.1. 訴訟の概要

本件は、上告補助参加人(以下「参加人」という。)の株主である被上告人が、参加人の取締役である上告人に対し、上告人らが、(以下「A」という。)の株式を1株当たり5万円の価格で参加人が買い取る旨の決定をしたことにつき、取締役としての善管注意義務違反があり、会社法423条1項により参加人に対する損害賠償責任を負うと主張して、同法847条に基づき、参加人に連帯して1億3004万0320円及び遅延損害金を支払うことを求める株主代表訴訟である。

4.2. 事実関係

原審の適法に確定した事実関係概要は、次のとおりである。
(1) 参加人は、を含む傘下の子会社等をグループ企業として、不動産賃貸あっせんのフランチャイズ事業等を展開し、平成18年9月期時点で、連結ベースで総資産約1038億円、売上高約497億円及び経常利益約43億円の経営規模を有していた。

(2) は、主として、備品付きマンスリーマンション事業を行うことなどを目的として平成13年に設立された会社であり、設立時の株式の払込金額は5万円であった。Aの株式は、発行済株式の総数9940株の約66.7%に相当する6630株を参加人が保有していたが、参加人が、上記(1)の事業の遂行上重要であると考えていた上記フランチャイズ事業の加盟店等(以下「加盟店等」という。)もこれを引き受け、保有していた。

(3) 参加人は、機動的なグループ経営を図り、グループの競争力の強化を実現するため完全子会社に主要事業を担わせ、参加人を持株会社とする事業再編計画を策定し、平成18年5月ころ、同計画に沿って、関連会社の統合、再編を進めていた。Aについては、参加人の完全子会社であるB(以下「B」という。)に合併して不動産賃貸管理業務等を含む事業を担わせることが計画された。

(4) 参加人には、社長の業務執行を補佐するための諮問機関として、役付取締役全員によって構成され、参加人及びその傘下のグループ各社の全般的な経営方針等を協議する経営会議が設置されている。平成18年5月11日に開催された経営会議には、上告人Y1 が代表取締役として、上告人Y2 及び同Y3 が取締役として出席し、AとBとの合併に関する議題が協議された。

そして、その席上、
① 参加人の重要な子会社であるBは、完全子会社である必要があり、そのためには、AもBとの合併前に完全子会社とする必要があること、
② Aを完全子会社とする方法は、参加人の円滑な事業遂行を図る観点から、株式交換ではなく、可能な限り任意の合意に基づく買取りを実施すべきであること、
③ その場合の買取価格は払込金額である5万円が適当であること
などが提案された。

参加人から、上記提案につき助言を求められた弁護士は、基本的に経営判断の問題であり法的な問題はないこと、任意の買取りにおける価格設定は必要性とバランスの問題であり、合計金額もそれほど高額ではないから、Aの株主である重要な加盟店等との関係を良好に保つ必要性があるのであれば許容範囲である旨の意見を述べた。

協議の結果、上記提案のとおり1株当たり5万円の買取価格(以下「本件買取価格」という。)でAの株式の買取りを実施することが決定され(以下「本件決定」という。)、併せて、当時参加人との間で紛争が生じており買取りに応じないことが予想された株主については、株式交換の手続が必要となる旨の説明がされ、了承された。

(5) 参加人は、Aを完全子会社とするために実施を予定していた株式交換に備え、監査法人等2社に株式交換比率の算定を依頼した。提出された交換比率算定書の一つにおいては、Aの1株当たりの株式評価額が9709円とされ、他の一つにおいては、類似会社比較法による1株当たりの株主資本価値が6561円ないし1万9090円とされた。

(6) 参加人は、平成18年6月9日ころから同月29日までの間に、本件決定に基づき、参加人以外のAの株主のうち、買取りに応じなかった1社を除く株主から、株式3160株を1株当たり5万円、代金総額1億5800万円で買い取った(以下、これらの買取りを「本件取引」と総称する。)。

(7) その後、参加人とAとの間で株式交換契約が締結され、Aの株式1株について、参加人の株式0.192株の割合をもって割当交付するものとされた。

4.3. 原審

原審は、上告人らの善管注意義務違反の有無について次のとおり判断して、上告人らに対し参加人に連帯して1億2640万円及び遅延損害金の支払を命ずる限度で、被上告人の請求を認容した。

本件買取価格は、

Aの株式1株当たりの払込金額が5万円であったことから、これと同額に設定されたものであり、それより低い額では買取りが円滑に進まないといえるか否かについて十分な調査、検討等がされていないこと

既にAの発行済株式の総数の3分の2以上の株式を保有していた参加人において、当時の状態を維持した場合と比較してAを完全子会社とすることが経営上どの程度有益な効果を生むかという観点から検討が十分にされていないこと

本件買取価格の設定当時のAの株式の1株当たりの価値は株式交換のために算定された評価額等から1万円であったと認めるのが相当であること
等からすれば、本件買取価格の設定には合理的な根拠又は理由を見出すことはできず、上告人らは、取締役としての善管注意義務に違反して、その任務を怠ったものである

4.4. 最高裁の判断

しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

前記事実関係によれば、本件取引は、AをBに合併して不動産賃貸管理等の事業を担わせるという参加人のグループの事業再編計画の一環として、Aを参加人の完全子会社とする目的で行われたものであるところ、このような事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。そして、この場合における株式取得の方法や価格についても、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性参加人の財務上の負担株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。

以上の見地からすると、参加人がAの株式を任意の合意に基づいて買い取ることは、円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきであるし、その買取価格についても、Aの設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば、払込金額である5万円を基準とすることには、一般的にみて相応の合理性がないわけではなく参加人以外のAの株主には参加人が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後における参加人及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや、非上場株式であるAの株式の評価額には相当のがあり事業再編の効果によるAの企業価値の増加も期待できたことからすれば、株式交換に備えて算定されたAの株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても、買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い

そして、本件決定に至る過程においては、参加人及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され、弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって、その決定過程にも、何ら不合理な点は見当たらない。

以上によれば、本件決定についての上告人らの判断は、参加人の取締役の判断として著しく不合理なものということはできないから、上告人らが、参加人の取締役としての善管注意義務に違反したということはできない

4.5. 結論

以上と異なる見解の下に、本件決定についての上告人らの判断に参加人取締役としての善管注意義務違反があるとして被上告人の請求を一部認容した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

論旨は理由があり、原判決中、上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、同部分に関する被上告人の請求は理由がないから、同部分について被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であり、同部分についての被上告人の控訴は棄却すべきである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

グループの事業再編計画の一環として行われる事業再編計画の策定およびそれに関する取引は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。

そして、この場合における株式取得の方法や価格についても、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性、参加人の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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