会社法

【重要判例】法人格否認の法理に関する判例

1. 事件の概要

店舗の所有者である被上告人上告会社との間で店舗の賃貸借契約を締結した。

その後、被上告人が右店舖を自己の用に供するため、上告会社の代表取締役であったAに対して店舖の明渡を請求した。

それに対してAは店舗の明渡をする旨の信書を被上告人へ差し入れたが、期日を過ぎても明け渡されなかったたため、被上告人は建物明渡請求訴訟を提起し、裁判所の勧告により被上告人Aとの間で店舗を明け渡す旨の和解契約が成立。

しかし、Aは和解の当事者はAであり、会社が使用している部分については明け渡さないとの主張をしたため、被上告人上告会社に対して建物明渡請求訴訟を提起した。

2. 争点/論点

・被上告人とAとの間で成立した和解契約の効力が、上告会社にも及ぶのか。

3. 条文

条文

商法第504条 
商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。

4. 最高裁判決

上告人の上告理由について。
およそ社団法人において法人とその構成員たる社員とが法律上別個の人格であることはいうまでもなく、このことは社員が一人である場合でも同様である。

しかし、およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に基づいて行なわれるものなのである。

従って、法人格が全くの形骸にすぎない場合またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。そして、この点に関し、株式会社については、特に次の場合が考慮されなければならないのである。

思うに、株式会社は準則主義によって容易に設立され得、かつ、いわゆる一人会社すら可能であるため、株式会社形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人則会社であって、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合を生じるのであって、このような場合、これと取引する相手方としては、その取引がはたして会社としてなされたか、または個人としてなされたか判然しないことすら多く、相手方の保護を必要とするのである。ここにおいて次のことが認められる。

すなわち、このような場合、会社という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る必要を生じるときは、会社名義でなされた取引であっても、相手方は会社という法人格を否認して恰も法人格のないと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であっても、相手方は敢て商法504条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得るのである。けだし、このように解しなければ、個人が株式会社形態を利用することによって、いわれなく相手方の利益が害される虞があるからである。

 今、本件についてみるに、原審(その引用する第一審判決を含む)の認定するところによれば被上告人は、その所有する本件店舖を、昭和36年2月20日契約書の文言によれば上告会社賃借人とし、これに対し賃料1ケ月1万円にて賃貸したところ、上告会社は本来が同人の経営した「D屋」についての税金の軽減を図る目的のため設立した株式会社で、A自らがその代表取締役となったのであり、会社とはいうものの、その実質は全くAの個人企業に外ならないものであって、被上告人としても、「D屋」のAに右店舖を賃貸したと考えていたこと、被上告人が右店舖を自己の用に供する必要上、昭和41年2月20日その店舖の明渡を請求したときも、Aが同年8月19日までに必ず明渡す旨の個人名義の書面を被上告人に差し入れたこと、しかるに、その明渡がされないので、被上告人はAを被告として右店舖明渡の訴訟を提起し、昭和42年3月4日当事者間にAは昭和43年1月末日限りその明渡をなすべき旨の裁判上の和解が成立したというのである。

しかして、今、右事実を前示説示したところに照らして考えると、上告会社は株式会社形態を採るにせよ、その実体背後に存するA個人に外ならないのであるから、被上告人はA個人に対して右店舖の賃料を請求し得、また、その明渡請求の訴訟を提起し得るのであって(もっとも、訴訟法上の既判力については別個の考察を要し、Aが店舖を明渡すべき旨の判決を受けたとしても、その判決の効力は上告会社には及ばない)、被上告人とAとの間に成立した前示裁判上の和解は、A個人名義にてなされたにせよ、その行為は上告会社の行為と解し得るのである。しからば、上告会社は、右認定の昭和43年1月末日限り、右店舖を被上告人に明渡すべきものというべきである。しかして、上告人の違憲の主張は、単なる法令違反の主張に過ぎず、原判決には何等所論の違法はなく、論旨はいずれも採用に値しない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じる。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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