会社法

【重要判例】ブルドックソース事件

1. 事件の概要

平成19年5月18日、米国の投資ファンドであるスティール・パートナーズの関連会社が、ブルドックソース株式会社の発行済み株式を全部取得することを目的に公開買付けを行う旨を公告。


上記公告を受けて、ブルドックソース株式会社は関東財務局長に、スティール・パートナーズ関連会社に対する様々な質問事項を記載した意見表明報告書を提出。


スティール・パートナーズ関連会社は回答を提出。


スティール・パートナーズ関連会社からの回答内容を受けて、ブルドックソースの取締役会は本件公開買付けはブルドックソースの企業価値を毀損し、会社の利益ひいては株主の共同の利益を害するものと判断。


スティール・パートナーズの公開買付けへの防衛措置として、ブルドックソースの株主総会で「定款変更案」と「新株予約権無償割り当てを行う案」を可決。


防衛策として講じた新株予約権無償割り当ての内容は以下の通り。

2. 争点/論点

スティール・パートナーズ側は、本件新株予約権の無償割当ては、株主平等の原則に反し、著しく不公正な方法によるものであるから、会社法247条1号及び2号に該当すると主張して、仮差し止めを求めたが認められるのか?

3. 条文

条文

会社法第247条
・次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第238条第1項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合

4. 最高裁決定

抗告代理人赤上博人ほかの抗告理由について

4.1. 概要

本件は、相手方の株主である抗告人が、相手方に対し、相手方のする株主に対する新株予約権の無償割当ては、株主平等の原則に反し、著しく不公正な方法によるものであるから、会社法(以下「法」という。)247条1号及び2号に該当すると主張して、これを仮に差し止めることを求める事案である。

4.2. 経緯

記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1) 相手方は、ソースその他調味料の製造及び販売等を主たる事業とする株式会社であり、その発行する株式を株式会社東京証券取引所市場第二部に上場している。平成19年6月8日(以下、月日のみ記載するときは、すべて平成19年である。)時点における相手方の発行可能株式総数は7813万1000株、発行済株式総数は1901万8565株である。

(2) 抗告人は、日本企業への投資を目的とする投資ファンドであり、5月18日時点において、関連法人と併せ、相手方の発行済株式総数の約10.25%を保有している。また、(以下「A」という。)は、アメリカ合衆国デラウェア州法に基づき、抗告人のために株式等の買付けを行うことを目的として設立された有限責任会社であり、抗告人がそのすべての持分を有している。

(3) は、5月18日、相手方の発行済株式のすべてを取得することを目的として、相手方の株式の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を行う旨の公告をし、公開買付開始届出書を関東財務局長に提出した。当初、本件公開買付けの買付期間は同日から6月28日まで、買付価格は1株1584円とされていたが、6月15日、買付期間は8月10日までに変更され、買付価格も1株1700円に引き上げられた。なお、上記の当初の買付価格は、相手方株式の本件公開買付け開始前の複数の期間における各平均市場価格に抗告人において適切と考える約12.82%から約18.56%までのプレミアムを加算したものとなっている。

(4) 相手方は、5月25日、Aに対する質問事項を記載した意見表明報告書を関東財務局長に提出し、これを受けて、Aは、6月1日、対質問回答報告書(以下「本件回答報告書」という。)を同財務局長に提出した。

(5) 本件回答報告書には、
①抗告人は日本において会社を経営したことはなく、現在その予定もないこと、
②抗告人が現在のところ相手方を自ら経営するつもりはないこと、
③相手方の企業価値を向上させることができる提案等を、どのようにして経営陣に提供できるかということについて想定しているものはないこと、
④抗告人は相手方の支配権を取得した場合における事業計画や経営計画を現在のところ有していないこと、
⑤相手方の日常的な業務を自ら運営する意図を有していないため、相手方の行う製造販売事業に係る質問について回答する必要はないこと
などが記載され、投下資本の回収方針については具体的な記載がなかった
このため、相手方取締役会は、6月7日、本件公開買付けは、相手方の企業価値をき損し、相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害するものと判断し、本件公開買付けに反対することを決議した。

また、相手方取締役会は、同日、本件公開買付けに対する対応策として、
①一定の新株予約権無償割当てに関する事項を株主総会の特別決議事項とすること等を内容とする定款変更議案(以下「本件定款変更議案」という。)及び
②これが可決されることを条件として、新株予約権無償割当てを行うことを内容とする議案(以下「本件議案」という。)を、
6月24日に開催予定の定時株主総会(以下「本件総会」という。)に付議することを決定した。

本件定款変更議案のうち、新株予約権無償割当てに関する部分の概要は、「相手方は、その企業価値及び株主の共同の利益の確保・向上のためにされる、新株予約権者のうち一定の者はその行使又は取得に当たり他の新株予約権者とは異なる取扱いを受ける旨の条件を付した新株予約権無償割当てに関する事項については、取締役会の決議によるほか、株主総会の決議又は株主総会の決議による委任に基づく取締役会の決議により決定する。この株主総会の決議は特別決議をもって行う。」というものである。

(6) 本件総会において、抗告人は、本件公開買付けに対する対応策の内容、その実施に要する費用の総額、当該対応策が実施された場合における課税上の負担の有無、本件公開買付けが撤回された後に新たな株式の公開買付けが行われる場合の相手方の対応等について質問するにとどまった。そして、本件定款変更議案及び本件議案は、いずれも出席した株主の議決権の約88.7%、議決権総数の約83.4%の賛成により可決された。

なお、本件総会において可決された新株予約権の無償割当て(以下、当該新株予約権を「本件新株予約権」といい、その無償割当てを「本件新株予約権無償割当て」という。)の概要は、次のとおりである。

新株予約権無償割当ての方法により、基準日である7月10日の最終の株主名簿及び実質株主名簿に記載又は記録された株主に対し、その有する相手方株式1株につき3個の割合で本件新株予約権を割り当てる。

本件新株予約権無償割当てが効力を生ずる日は、7月11日とする。

本件新株予約権1個の行使により相手方が交付する普通株式の数(割当株式数)は、1株とする。

本件新株予約権の行使により相手方が普通株式を交付する場合における払込金額は、株式1株当たり1円とする。

本件新株予約権の行使可能期間は、9月1日から同月30日までとする。

抗告人及びAを含む抗告人の関係者(以下、併せて「抗告人関係者」という。)は、非適格者として本件新株予約権を行使することができない(以下「本件行使条件」という。)。

相手方は、その取締役会が定める日(行使可能期間の初日より前の日)をもって、抗告人関係者の有するものを除く本件新株予約権を取得し、その対価として、本件新株予約権1個につき当該取得日時点における割当株式数の普通株式を交付することができる。相手方は、その取締役会が定める日(行使可能期間の初日より前の日)をもって、抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得し、その対価として、本件新株予約権1個につき396円を交付することができる(以下、これらの条項を「本件取得条項」という。)。なお、上記金額は、本件公開買付けにおける当初の買付価格の4分の1に相当するものである。

譲渡による本件新株予約権の取得については、相手方取締役会の承認を要する。

(7) 相手方取締役会は、6月24日、本件議案の可決を受けて、本件新株予約権無償割当ての要項を決議するとともに、税務当局に対する確認の結果、株主に対する課税上の問題から、非適格者である抗告人関係者から本件取得条項に基づき本件新株予約権の取得を行うことができないと判断される場合であっても、抗告人関係者の有する本件新株予約権の全部を、相手方として抗告人関係者に何らの負担・義務を課すことなく1個につき396円の支払と引換えに譲り受ける旨決議した(以下、この決議を「本件支払決議」という。)。

4.3.

(1) 抗告人は、本件総会に先立つ6月13日、本件新株予約権無償割当てには、法247条の規定が適用又は類推適用されるところ、これは株主平等の原則に反して法令及び定款(以下「法令等」という。)に違反し、かつ、著しく不公正な方法によるものであるなどと主張して、原々審に対し、本件新株予約権無償割当ての差止めを求める仮処分命令の申立て(以下「本件仮処分命令の申立て」という。)をした。

(2) 原々審は、6月28日、株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合においても、当該無償割当てが株主の地位に実質的変動を及ぼすときには、法247条の規定が類推適用され、株主平等の原則の趣旨が及ぶとした上で、本件新株予約権無償割当ては、株主平等の原則の趣旨に反して法令等に違反するものではなく、著しく不公正な方法によるものともいえないとして、本件仮処分命令の申立てを却下する旨の決定をした

(3) 抗告人は、原審に抗告したが、原審は、7月9日、本件新株予約権無償割当てが相手方の企業価値のき損を防止するために必要かつ相当で合理的なものであり、また、抗告人関係者がいわゆる濫用的買収者であることを考慮すると、これは株主平等の原則に反して法令等に違反するものではなく、著しく不公正な方法によるものともいえないとして、抗告を棄却した。

4.4.

本件抗告の理由は、原決定が、本件新株予約権無償割当ては株主平等の原則に反して法令等に違反するものではないとし、著しく不公正な方法によるものともいえないとしたことを論難するものである。

(1) 株主平等の原則に反するとの主張について
法109条1項は、株式会社(以下「会社」という。)は株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないとして、株主平等の原則を定めている。

新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできないしかし、株主は、株主としての資格に基づいて新株予約権の割当てを受けるところ、法278条2項は、株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは、株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定するなど、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としているものと解されるのであって法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである

そして、本件新株予約権無償割当ては、割り当てられる新株予約権の内容につき、抗告人関係者とそれ以外の株主との間で前記のような差別的な行使条件及び取得条項が定められているため、抗告人関係者以外の株主が新株予約権を全部行使した場合、又は、相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者以外の株主の新株予約権を全部取得し、その対価として株式が交付された場合には、抗告人関係者は、その持株比率が大幅に低下するという不利益を受けることとなる。

株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない

そして、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり、虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。

本件総会において、本件議案は、議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決されたのであるから、抗告人関係者以外のほとんどの既存株主が、抗告人による経営支配権の取得が相手方の企業価値をき損し、相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害することになると判断したものということができる。そして、本件総会の手続に適正を欠く点があったとはいえず、また、上記判断は、抗告人関係者において、発行済株式のすべてを取得することを目的としているにもかかわらず、相手方の経営を行う予定はないとして経営支配権取得後の経営方針を明示せず、投下資本の回収方針についても明らかにしなかったことなどによるものであることがうかがわれるのであるから、当該判断に、その正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められない。

そこで、抗告人による経営支配権の取得が相手方の企業価値をき損し、相手方の利益ひいては株主の共同の利益を害することになるという本件総会における株主の判断を前提にして、本件新株予約権無償割当てが衡平の理念に反し、相当性を欠くものであるか否かを検討する。

抗告人関係者は、本件新株予約権に本件行使条件及び本件取得条項が付されていることにより、当該予約権を行使することも、取得の対価として株式の交付を受けることもできず、その持株比率が大幅に低下することにはなる。しかし、本件新株予約権無償割当ては、抗告人関係者も意見を述べる機会のあった本件総会における議論を経て、抗告人関係者以外のほとんどの既存株主が、抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐために必要な措置として是認したものである。

さらに、抗告人関係者は、本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権の取得が実行されることにより、その対価として金員の交付を受けることができ、また、これが実行されない場合においても、相手方取締役会の本件支払決議によれば、抗告人関係者は、その有する本件新株予約権の譲渡を相手方に申し入れることにより、対価として金員の支払を受けられることになるところ、上記対価は、抗告人関係者が自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので、本件新株予約権の価値に見合うものということができる。

これらの事実にかんがみると、抗告人関係者が受ける上記の影響を考慮しても、本件新株予約権無償割当てが、衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められない。なお、相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得する場合に、相手方は抗告人関係者に対して多額の金員を交付することになり、それ自体、相手方の企業価値をき損し、株主の共同の利益を害するおそれのあるものということもできないわけではないが、上記のとおり、抗告人関係者以外のほとんどの既存株主は、抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐためには、上記金員の交付もやむを得ないと判断したものといえ、この判断も尊重されるべきである。

したがって、抗告人関係者が原審のいう濫用的買収者に当たるといえるか否かにかかわらず、これまで説示した理由により、本件新株予約権無償割当ては、株主平等の原則の趣旨に反するものではなく、法令等に違反しないというべきである。

(2) 著しく不公正な方法によるものとの主張について
本件新株予約権無償割当てが、株主平等の原則から見て著しく不公正な方法によるものといえないことは、これまで説示したことから明らかである。また、相手方が、経営支配権を取得しようとする行為に対し、本件のような対応策を採用することをあらかじめ定めていなかった点や当該対応策を採用した目的の点から見ても、これを著しく不公正な方法によるものということはできない。その理由は、次のとおりである。

すなわち、本件新株予約権無償割当ては、本件公開買付けに対応するために、相手方の定款を変更して急きょ行われたもので、経営支配権を取得しようとする行為に対する対応策の内容等が事前に定められ、それが示されていたわけではない。確かに、会社の経営支配権の取得を目的とする買収が行われる場合に備えて、対応策を講ずるか否か、講ずるとしてどのような対応策を採用するかについては、そのような事態が生ずるより前の段階で、あらかじめ定めておくことが、株主、投資家、買収をしようとする者等の関係者の予見可能性を高めることになり、現にそのような定めをする事例が増加していることがうかがわれる。

しかし、事前の定めがされていないからといって、そのことだけで、経営支配権の取得を目的とする買収が開始された時点において対応策を講ずることが許容されないものではない。本件新株予約権無償割当ては、突然本件公開買付けが実行され、抗告人による相手方の経営支配権の取得の可能性が現に生じたため、株主総会において相手方の企業価値のき損を防ぎ、相手方の利益ひいては株主の共同の利益の侵害を防ぐためには多額の支出をしてもこれを採用する必要があると判断されて行われたものであり、緊急の事態に対処するための措置であること、前記のとおり、抗告人関係者に割り当てられた本件新株予約権に対してはその価値に見合う対価が支払われることも考慮すれば、対応策が事前に定められ、それが示されていなかったからといって、本件新株予約権無償割当てを著しく不公正な方法によるものということはできない。

また、株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべきであるが、本件新株予約権無償割当てが、そのような場合に該当しないことも、これまで説示したところにより明らかである。

(3) したがって、本件新株予約権無償割当てを、株主平等の原則の趣旨に反して法令等に違反するものということはできず、また、著しく不公正な方法によるものということもできない。

4.5. 結論

以上のとおりであるから、論旨は理由がなく、本件仮処分命令の申立てを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・敵対的買収に対する対抗措置として新株予約権無償割り当てが利用された。

・株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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