行政法

【重要判例】新潟空港訴訟

1. 事件の概要

1979年12月、運輸大臣は日本航空に対して新潟-小松-ソウル間、全日本空輸に対して新潟-仙台間の定期航空運送事業免許を付与した。

これに対し、新潟空港周辺に居住する一部住民が新潟空港の運用により生ずる航空機発着に伴う騒音等によりその生活利益を侵害されていると主張してこれら免許の取り消しを求めて訴訟を提起した。

2. 争点/論点

新潟空港の周辺に居住する住民に、行政訴訟の原告適格が認められるのかが争点となった。

3. 条文

条文

行政事件訴訟法9条
・処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

4. 最高裁判決

4.1. 取消訴訟の原告適格について

 取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであるが、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するということができる。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである

 右のような見地に立って、以下、航空法(以下「法」という。)100条、101条に基づく定期航空運送事業免許につき、飛行場周辺に居住する者が、当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音により障害を受けることを理由として、その取消しを訴求する原告適格を有するか否かを検討する。

4.2. 飛行場周辺の住民に原告適格が認められるのか

 法は、国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠しているものであるが、航空機の航行に起因する障害の防止を図ることをその直接の目的の一つとしている(法1条)。

この目的は、右条約の第16附属書として採択された航空機騒音に対する標準及び勧告方式に準拠して、法の一部改正(昭和50年法律第58号)により、航空機騒音の排出規制の観点から航空機の型式等に応じて定められた騒音の基準に適合した航空機につき運輸大臣がその証明を行う騒音基準適合証明制度に関する法20条以下の規定が新設された際に、新たに追加されたものであるから、右にいう航空機の航行に起因する障害に航空機の騒音による障害が含まれることは明らかである。

 ところで、定期航空運送事業を経営しようとする者が運輸大臣の免許を受けるときに、免許基準の一つである、事業計画が経営上及び航空保安上適切なものであることについて審査を受けなければならないのであるが(法100条1項、2項、101条1項3号)、事業計画には、当該路線の起点、寄航地及び終点並びに当該路線の使用飛行場、使用航空機の型式、運航回数及び発着日時ほかの事項を定めるべきものとされている(法100条2項、航空法施行規則210条1項8号、2項6号)。

そして、右免許を受けた定期航空運送事業者は、免許に係る事業計画に従って業務を行うべき義務を負い(法108条)、また、事業計画を変更しようとするときは、運輸大臣の認可を要するのである(法109条)。このように、事業計画は、定期航空運送事業者が業務を行ううえで準拠すべき基本的規準であるから、申請に係る事業計画についての審査は、その内容が法一条に定める目的に沿うかどうかという観点から行われるべきことは当然である。

 更に、運輸大臣は、定期航空運送事業について公共の福祉を阻害している事実があると認めるときは、事業改善命令の一つとして、事業計画の変更を命ずることができるのであるが(法112条)、右にいう公共の福祉を阻害している事実に、飛行場周辺に居住する者に与える航空機騒音障害が一つの要素として含まれることは、航空機の航行に起因する障害の防止を図るという、前述した法一条に定める目的に照らし明らかである。

また、航空運送事業の免許権限を有する運輸大臣は、他方において、公共用飛行場の周辺における航空機の騒音による障害の防止等を目的とする公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律三条に基づき、公共用飛行場周辺における航空機の騒音による障害の防止・軽減のために必要があるときは、航空機の航行方法の指定をする権限を有しているのであるが、同一の行政機関である運輸大臣が行う定期航空運送事業免許の審査は、関連法規である同法の航空機の騒音による障害の防止の趣旨をも踏まえて行われることが求められるといわなければならない。

 以上のような航空機騒音障害の防止の観点からの定期航空運送事業に対する規制に関する法体系をみると、法は、前記の目的を達成する一つの方法として、あらかじめ定期航空運送事業免許の審査の段階において、当該路線の使用飛行場使用航空機の型式運航回数及び発着日時など申請に係る事業計画の内容が、航空機の騒音による障害の防止の観点からも適切なものであるか否かを審査すべきものとしているといわなければならない。

換言すれば、申請に係る事業計画が法101条1項3号にいう「経営上及び航空保安上適切なもの」であるかどうかは、当該事業計画による使用飛行場周辺における当該事業計画に基づく航空機の航行による騒音障害の有無及び程度を考慮に入れたうえで判断されるべきものである。

したがって、申請に係る事業計画に従って航空機が航行すれば、当該路線の航空機の航行自体により、あるいは従前から当該飛行場を使用している航空機の航行とあいまって、使用飛行場の周辺に居住する者に騒音障害をもたらすことになるにもかかわらず、当該事業計画が適切なものであるとして定期航空運送事業免許が付与されたときに、その騒音障害の程度及び障害を受ける住民の範囲など騒音障害の影響と、当該路線の社会的効用、飛行場使用の回数又は時間帯の変更の余地、騒音防止に関する技術水準、騒音障害に対する行政上の防止・軽減、補償等の措置等との比鮫衡量において妥当を欠き、そのため免許権者に委ねられた裁量の逸脱があると判断される場合がありうるのであって、そのような場合には、当該免許は、申請が法101条1項3号の免許基準に適合しないのに付与されたものとして、違法となるといわなければならない。

 そして、航空機の騒音による障害の被害者は、飛行場周辺の一定の地域的範囲の住民に限定され、その障害の程度は居住地域が離着陸経路に接近するにつれて増大するものであり、他面、飛行場に航空機が発着する場合に常にある程度の騒音が伴うことはやむをえないところであり、また、航空交通による利便が政治、経済、文化等の面において今日の社会に多大の効用をもたらしていることにかんがみれば、飛行場周辺に居住する者は、ある程度の航空機騒音については、不可避のものとしてこれを甘受すべきであるといわざるをえず、その騒音による障害が著しい程度に至ったときに初めて、その防止・軽減を求めるための法的手段に訴えることを許容しうるような利益侵害が生じたものとせざるをえないのである。

このような航空機の騒音による障害の性質等を踏まえて、前述した航空機騒音障害の防止の観点からの定期航空運送事業に対する規制に関する法体系をみると、法が、定期航空運送事業免許の審査において、航空機の騒音による障害の防止の観点から、申請に係る事業計画が法101条1項3号にいう「経営上及び航空保安上適切なもの」であるかどうかを、当該事業計画による使用飛行場周辺における当該事業計画に基づく航空機の航行による騒音障害の有無及び程度を考慮に入れたうえで判断すべきものとしているのは、単に飛行場周辺の環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によって著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むものと解することができるのである。

したがって、新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住していて、当該免許に係る事業が行われる結果、当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして、当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。

 してみると、本件各免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって上告人が受けることとなる障害の有無及び程度について何ら問うことなく、上告人は本件各免許の取消しを訴求する原告適格を有しないとして本件訴えを却下した第一審判決及びこれを支持した原判決は、いずれも法令の解釈適用を誤ったものといわざるをえない。

4.3. 上告人の主張と法律上の利益

 しかしながら、本件記録によれば、上告人が本件各免許の違法事由として具体的に主張するところは、要するに、

(1) 被上告人が告示された供用開始期日の前から本件空港の変更後の着陸帯乙及び滑走路乙を供用したのは違法であり、このような状態において付与された本件各免許は法101条1項3号の免許基準に適合しない、

(2) 本件空港の着陸帯甲及び乙は非計器用であるのに、被上告人はこれを違法に計器用に供用しており、このような状態において付与された本件各免許は右免許基準に適合しない、

(3) 日本航空株式会社に対する本件免許は、当該路線の利用客の大部分が遊興目的の韓国ツアーの団体客である点において、同条同項1号の免許基準に適合せず、また、当該路線については、日韓航空協定に基づく相互乗入れが原則であることにより輸送力が著しく供給過剰となるので、同項2号の免許基準に適合しない、

というものであるから、上告人の右違法事由の主張がいずれも自己の法律上の利益に関係のない違法をいうものであることは明らかである。

そうすると、本件請求は、上告人が本件各免許の取消しを訴求する原告適格を有するとしても、行政事件訴訟法10条1項によりその主張自体失当として棄却を免れないことになるが、その結論は原判決より上告人に不利益となり、民訴法396条、385条により原判決を上告人に不利益に変更することは許されないので、当裁判所は原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめるほかなく、結局、原判決の前示の違法は、その結論に影響を及ぼさないこととなる。また、所論違憲の主張は、実質において法令違背を主張するものにすぎない。それゆえ、論旨は、採用することができない。

 よって、行政事件訴訟法7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するとして周辺住民に原告適格が認められた。

・原告適格が認められたものの、上告人の主張の内容は自己の法律上の利益に関係ないものであり不適法な主張として棄却。


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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