憲法

【重要判例】よど号事件新聞記事抹消事件

1. 事件の概要

国際反戦デー闘争に参加したXらは、公務執行妨害罪および凶器準備集合罪で起訴され、東京拘置所に拘留されていたときに拘置所内にて私費で新聞を定期購読していた。

Xらの勾留中に赤軍派学生による「よど号ハイジャック事件」が発生した。

Xらに配布された新聞は、よど号事件の関連記事の一切を塗りつぶされていたため、これに対してXらは、当該処置は憲法21条が保障する知る権利に違反する無効なものであるとして、訴え起こした

2. 争点/論点

3. 条文

条文

憲法21条1項
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

4. 最高裁判決

所論は、未決勾留によって拘禁された者に対する新聞紙の閲読の自由を制限しうる旨定めた監獄法31条2項監獄法施行規則86条1項の各規定昭和41年12月13日法務大臣訓令及び昭和41年12月20日法務省矯正局長依命通達は、思想及び良心の自由を保障した憲法19条並びに表現の自由を保障した憲法21条の各規定に違反し無効である、というのである。

監獄法31条2項、監獄法施行規則86条1項の合憲審査

 未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであって、右の勾留により拘禁された者は、その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的のために必要かつ合理的な範囲において、それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり、このことは、未決勾留そのものの予定するところでもある。

また、監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持し、その常な状態を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合には、未決勾留によって拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、やむをえないところというべきである(その制限が防禦権との関係で制約されることもありうるのは、もとより別論である。)。

そして、この場合において、これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。

 本件において問題とされているのは、東京拘置所長のした本件新聞記事抹消処分による上告人ら新聞紙閲読の自由の制限が憲法に違反するかどうか、ということである。

そこで検討するのに、およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。

それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法13条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。

しかしながら、このような閲読の自由は、生活のさまざまな場面にわたり、極めて広い範囲に及ぶものであって、もとより上告人らの主張するようにその制限が絶対に許されないものとすることはできず、それぞれの場面において、これに優越する公共の利益のための必要から一定の合理的制限を受けることがあることもやむをえないものといわなければならない。

そしてこのことは、閲読の対象が新聞紙である場合でも例外ではない。

この見地に立って考えると、本件におけるように、未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。

しかしながら、未決勾留は、前記刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり、他方、これにより拘禁される者は、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは、右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。

したがって、右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。

 ところで、監獄法31条2項は、在監者に対する文書、図画の閲読の自由を制限することができる旨を定めるとともに、制限の具体的内容を命令に委任し、これに基づき監獄法施行規則86条1項はその制限の要件を定め、更に所論の法務大臣訓令及び法務省矯正局長依命通達は、制限の範囲、方法を定めている。これらの規定を通覧すると、その文言上はかなりゆるやかな要件のもとで制限を可能としているようにみられるけれども、上に述べた要件及び範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解するのが相当であり、かつ、そう解することも可能であるから、右法令等は、憲法に違反するものではないとしてその効力を承認することができるというべきである。論旨は、採用することができない。

監獄法31条2項、監獄法施行規則86条1項の適用にあたる合憲審査

 同第二点について、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。

そして、具体的場合における前記法令等の適用にあたり、当該新聞紙、図書等の閲読を許すことによって監獄内における規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存するかどうか、及びこれを防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必要と認められるかについては、監獄内の実情に通暁し、直接その衝にあたる監獄の長による個個の場合の具体的状況のもとにおける裁量的判断にまつべき点が少なくないから、障害発生の相当の蓋然性があるとした長の認定に合理的な根拠があり、その防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合理性が認められる限り、長の右措置は適法として是認すべきものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記事実関係、殊に本件新聞記事抹消処分当時までの間においていわゆる公安事件関係の被拘禁者らによる東京拘置所内の規律及び秩序に対するかなり激しい侵害行為が相当頻繁に行われていた状況に加えて、本件抹消処分に係る各新聞記事がいずれもいわゆる赤軍派学生によって敢行された航空機乗っ取り事件に関するものであること等の事情に照らすと、東京拘置所長において、公安事件関係の被告人として拘禁されていた上告人らに対し本件各新聞記事の閲読を許した場合には、拘置所内の静穏が攪乱され、所内の規律及び秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるものとしたことには合理的な根拠があり、また、右の障害発生を防止するために必要であるとして右乗っ取り事件に関する各新聞記事の全部を原認定の期間抹消する措置をとったことについても、当時の状況のもとにおいては、必要とされる制限の内容及び程度についての同所長の判断に裁量権の逸脱又は濫用の違法があったとすることはできないものというべきである。

これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・未決勾留者の新聞紙閲読の自由の制限は、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合には、一定の制限を加えられることはやむをえない


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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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