憲法

【重要判例】サラリーマン税金訴訟 - 会社員に経費の実額控除を認めないのは違憲?

1. 事件の概要

原告改正前の所得税法中の給与所得に係る課税関係規定は、次のとおり、事業所得者等の他の所得者に比べて給与所得者に対し著しく不公平な所得税の負担を課し、給与所得者を差別的に扱っているから、憲法14条1項の規定に違反し無効であると主張し、違憲確認の訴訟を起こした。

  1. 旧所得税法は、事業所得等の金額の計算について、事業所得者等がその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めているにもかかわらず、給与所得の金額の計算については、給与所得者がその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めず、右金額を著しく下回る額の給与所得控除を認めるにとどまるものである。
  2. 旧所得税法は、事業所得等の申告納税方式に係る所得の捕捉率に比し給与所得の捕捉率極めて高くなるという仕組みになっており、給与所得者に対し所得税負担の不当なしわ寄せを行うものである。
  3. 旧所得税法は、合理的な理由のない各種の租税優遇措置が講じられている事業所得者等に比べて、給与所得者に対し過重な所得税の負担を課するものである。

※所得の捕捉率:税務署などの課税庁が個人や法人の所得を正確に把握している割合のこと

2. 争点/論点

・経費の実額控除を事業所得者には認め、給与所得者には認めない点は憲法14条1項に違反するのか

・事業所得に比べ給与所得の捕捉率が高くなる仕組みは憲法14条1項に違反するのか

・事業所得者に税制優遇措置が講じられている点は憲法14条1項に違反するのか

3. 条文

条文

憲法14条1項
・すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

4. 最高裁判決

4.1. 必要経費の控除に対する違憲審査

旧所得税法は、所得税の課税対象である所得をその性質に応じて10種類に分類した上、不動産所得、事業所得、山林所得及び雑所得の金額の計算については、それぞれその年中の総収入金額から必要経費を控除すること、右の必要経費は当該総収入金額を得るために必要な経費であり、家事上の経費、これに関連する経費(当該経費の主たる部分が右の総収入金額を得るために必要であり、かつ、その必要である部分が明瞭に区分できる場合における当該部分に相当する経費等を除く。以下同じ。)等は必要経費に算入しないことを定めている。

また、旧所得税法は、配当所得、譲渡所得及び一時所得の金額の計算についても、「その元本を取得するために要した負債の利子」、「その資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費」又は「その収入を得るために支出した金額」を控除することを定めている。

一方、旧所得税法は、給与所得の金額その年中の収入金額から同法所定の金額を控除した金額とすることを定めている(この控除を以下「給与所得控除」という。)。

ところで、給与所得についても収入金額を得るための必要経費の存在を観念し得るところ、当時の税制調査会の答申及び立法の経過に照らせば、右の給与所得控除には、給与所得者の勤務に伴う必要経費を概算的に控除するとの趣旨が含まれていることが明らかであるから、旧所得税法は、事業所得等に係る必要経費については、事業所得者等が実際に要した金額による実額控除を認めているのに対し、給与所得については、必要経費の実額控除を認めず、代わりに同法所定額による概算控除を認めるものであり、必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者とを区別するものであるということができる。

要約

事業所得者:必要経費の実額控除認められている
給与所得者: 必要経費の実額控除認められていない

そこで、右の区別が憲法14条1項の規定に違反するかどうかについて検討する

憲法14条1項は、すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない旨を明定している。この平等の保障は、憲法の最も基本的な原理の1つであって、課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものである。しかしながら、国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであって、これらの差異を無視して均一の取扱いをすることは、かえって国民の間に不均衡をもたらすものであり、もとより憲法14条1項の規定の趣旨とするところではない。すなわち、憲法の右規定は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないのである。

ところで、租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付であるが、およそ民主主義国家にあっては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり、我が国の憲法も、かかる見地の下に、国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。

それゆえ、課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要であるが、憲法自体は、その内容について特に定めることをせず、これを法律の定めるところにゆだねているのである。

思うに、租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。

したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。

そうであるとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である。

要約

■違憲審査の判断枠組み
租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできない

給与所得者は、事業所得者等と異なり、自己の計算と危険とにおいて業務を遂行するものではなく、使用者の定めるところに従って役務を提供し、提供した役務の対価として使用者から受ける給付をもってその収入とするものであるところ、右の給付の額はあらかじめ定めるところによりおおむね一定額に確定しており、職場における勤務上必要な施設、器具、備品等に係る費用のたぐいは使用者において負担するのが通例であり、給与所得者が勤務に関連して費用の支出をする場合であっても、各自の性格その他の主観的事情を反映して支出形態、金額を異にし、収入金額との関連性が間接的かつ不明確とならざるを得ず、必要経費と家事上の経費又はこれに関連する経費との明瞭な区分が困難であるのが一般である。

その上、給与所得者はその数が膨大であるため、各自の申告に基づき必要経費の額を個別的に認定して実額控除を行うこと、あるいは概算控除と選択的に右の実額控除を行うことは、技術的及び量的に相当の困難を招来し、ひいて租税徴収費用の増加を免れず、税務執行上少なからざる混乱を生ずることが懸念される

また、各自の主観的事情や立証技術の巧拙によってかえって租税負担の不公平をもたらすおそれもなしとしない。

旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算控除の制度を設けた目的は、給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意しつつ、右のような弊害を防止することにあることが明らかであるところ、租税負担を国民の間に公平に配分するとともに、租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現することは、租税法の基本原則であるから、右の目的は正当性を有するものというべきである。

要約

■給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算控除の制度を設けた目的
給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意しつつ、以下の弊害を防止することにある。

・給与所得者はその数が膨大であるため、各自の申告に基づき必要経費の額を個別的に認定して実額控除を行うこと、あるいは概算控除と選択的に実額控除を行うことは、技術的及び量的に相当の困難を招来し、ひいて租税徴収費用の増加を免れず、税務執行上少なからざる混乱を生ずることが懸念される。

・各自の主観的事情や立証技術の巧拙によってかえって租税負担の不公平をもたらすおそれ

そして、右目的との関連において、旧所得税法が具体的に採用する前記の給与所得控除の制度が合理性を有するかどうかは、結局のところ、給与所得控除の額が給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を有するかどうかにかかるものということができる。

もっとも、前記の税制調査会の答申及び立法の経過によると、右の給与所得控除は、前記のとおり給与所得に係る必要経費を概算的に控除しようとするものではあるが、なおその外に、
(1) 給与所得は本人の死亡等によってその発生が途絶えるため資産所得や事業所得に比べて担税力に乏しいことを調整する、
(2) 給与所得は源泉徴収の方法で所得税が徴収されるため他の所得に比べて相対的により正確に捕捉されやすいことを調整する、
(3) 給与所得においては申告納税の場合に比べ平均して約五か月早期に所得税を納付することになるからその間の金利を調整する、

との趣旨を含むものであるというのである。

しかし、このような調整は、前記の税制調査会の答申及び立法の経過によっても、それがどの程度のものであるか明らかでないばかりでなく、所詮、立法政策の問題であって、所得税の性格又は憲法14条1項の規定から何らかの調整を行うことが当然に要求されるものではない。

したがって、憲法14条1項の規定の適用上、事業所得等に係る必要経費につき実額控除が認められていることとの対比において、給与所得に係る必要経費の控除のあり方が均衡のとれたものであるか否かを判断するについては、給与所得控除を専ら給与所得に係る必要経費の控除ととらえて事を論ずるのが相当である。

しかるところ、給与所得者の職務上必要な諸設備、備品等に係る経費は使用者が負担するのが通例であり、また、職務に関し必要な旅行や通勤の費用に充てるための金銭給付、職務の性質上欠くことのできない現物給付などがおおむね非課税所得として扱われていることを考慮すれば、本件訴訟における全資料に徴しても、給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の前記給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であって、右給与所得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるということはできないものとせざるを得ない。

以上のとおりであるから、旧所得税法が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に設けた前記の区別は、合理的なものであり、憲法14条1項の規定に違反するものではないというべきである。

4.2. 捕捉率の較差に対する違憲審査

次に、所論は事業所得等の捕捉率給与所得の捕捉率下回っていることを指摘するが、その趣旨は、捕捉率の著しい較差が恒常的に存する以上、それは単に徴税技術の巧拙等の事実上の問題であるにとどまらず、制度自体の欠陥を意味するものとして、本件課税規定を違憲ならしめるものである、というのである。

事業所得等の捕捉率が相当長期間にわたり給与所得の捕捉率を下回っていることは、本件記録上の資料から認められないではなく、租税公平主義の見地からその是正のための努力が必要であるといわなければならない。しかしながら、このような所得の捕捉の不均衡の問題は、原則的には、税務行政の適正な執行により是正されるべき性質のものであって、捕捉率の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく、かつ、それが長年にわたり恒常的に存在して租税法制自体に基因していると認められるような場合であれば格別(本件記録上の資料からかかる事情の存在を認めることはできない。)、そうでない限り、租税法制そのものを違憲ならしめるものとはいえないから、捕捉率の較差の存在をもって本件課税規定が憲法14条1項の規定に違反するということはできない

要約

捕捉率の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく、かつ、それが長年にわたり恒常的に存在し、その原因が租税法制自体にあるとは認められないので憲法14条1項に違反するとは言えない。

4.3. 租税優遇措置に対する違憲審査

また、所論は合理的理由のない租税優遇措置の存在をいうが、仮に所論の租税優遇措置が合理性を欠くものであるとしても、そのことは、当該措置自体の有効性に影響を与えるものにすぎず、本件課税規定を違憲無効ならしめるものということはできない

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできない

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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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