憲法

【重要判例】尊属殺重罰規定違憲判決

1. 事件の概要

1968年10月5日、父親Xと同居していた娘のA首を絞めて殺したところ、尊属殺で起訴された。

旧刑法200条の規定では尊属殺は死刑または無期懲役の量刑しか存在せず、普通の殺人罪に比べて重くなっている点が憲法14条1項に違反するのかが争われた。

2. 争点/論点

3. 条文

条文

憲法14条1項
・すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

4. 最高裁判決

刑法200条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することをもって一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる所為を通常の殺人の場合より厳重に処罰し、もって特に強くこれを禁圧しようとするにあるものと解される。

ところで、およそ、親族は、婚姻と血縁とを主たる基盤とし、互いに自然的な敬愛と親密の情によって結ばれていると同時に、その間おのずから長幼の別や責任の分担に伴う一定の秩序が存し、通常、卑属は父母、祖父母等の直系尊属により養育されて成人するのみならず、尊属は、社会的にも卑属の所為につき法律上、道義上の責任を負うのであって、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。

しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為はかかる結合の破壊であって、それ自体人倫の大本に反し、かかる行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができる

このような点を考えれば、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない

そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもってただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがってまた、憲法14条1項に違反するということもできないものと解する

要約

・尊属殺規定の立法目的は「尊属を卑属またはその配偶者が殺害することは、一般に高度の社会的道義的非難に値するものであるから、通常の殺人の場合より厳重に処罰し、特に強くこれを禁圧しようとする」ところにある。

・自己または配偶者の直系尊属を殺害する行為は親族の結合を破壊する行為であって、それ自体人倫に反するものであるから、尊属を殺害する行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができるそのため、法律上尊属殺に対して通常の殺人に比べて刑を加重する扱いをしても、ただちに憲法14条1条に違反することにはならない。

さて、右のとおり、普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、しかしながら、刑罰加重の程度いかんによっては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない

すなわち、加重の程度が極端であって、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない

この観点から刑法200条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役刑のみであり、普通殺人罪に関する同法199条の法定刑が、死刑、無期懲役刑のほか3年以上の有期懲役刑となっているのと比較して、刑種選択の範囲が極めて重い刑に限られていることは明らかである。

もっとも、現行刑法にはいくつかの減軽規定が存し、これによって法定刑を修正しうるのであるが、現行法上許される2回の減軽を加えても、尊属殺につき有罪とされた卑属に対して刑を言い渡すべきときには、処断刑の下限は懲役3年6月を下ることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することはできないのであり、普通殺の場合とは著しい対照をなすものといわなければならない。

もとより、卑属が、責むべきところのない尊属を故なく殺害するがごときは厳重に処罰すべく、いささかも仮借すべきではないが、かかる場合でも普通殺人罪の規定の適用によってその目的を達することは不可能ではない

その反面、尊属でありながら卑属に対して非道の行為に出で、ついには卑属をして尊属を殺害する事態に立ち至らしめる事例も見られ、かかる場合、卑属の行為は必ずしも現行法の定める尊属殺の重刑をもって臨むほどの峻厳な非難には値しないものということができる。

量刑の実状をみても、尊属殺の罪のみにより法定刑を科せられる事例はほとんどなく、その大部分が減軽を加えられており、なかでも現行法上許される2回の減軽を加えられる例が少なくないのみか、その処断刑の下限である懲役3年6月の刑の宣告される場合も決して稀ではない。

このことは、卑属の背倫理性が必ずしも常に大であるとはいえないことを示すとともに、尊属殺の法定刑が極端に重きに失していることをも窺わせるものである。

このようにみてくると、尊属殺の法定刑は、それが死刑または無期懲役刑に限られている点においてあまりにも厳しいものというべく、上記のごとき立法目的、すなわち、尊属に対する敬愛や報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点のみをもってしては、これにつき十分納得すべき説明がつきかねるところであり、合理的根拠に基づく差別的取扱いとして正当化することはとうていできない

以上のしだいで、刑法200条は尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがって、尊属殺にも刑法199条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。

要約

・尊属殺につき有罪とされた卑属に対して刑を言い渡すときには、処断刑の下限は懲役3年6月を下ることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があっても法律上刑の執行を猶予することができず、普通殺の場合とは著しい対照をなすものである。

・尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比べて、著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効である。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・本判決は刑法200条が法令違憲と判断された重要な判決である。

・尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比べて、著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効。

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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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