憲法

【重要判例】指紋押捺拒否事件

1. 事件の概要

アメリカ国籍でハワイに在住する被告人が、昭和56年11月9日、当時来日し居住していた神戸市において新規の外国人登録の申請をしたところ、外国人登録原票、登録証明書及び指紋原紙二葉に指紋の押捺をしなかったため、外国人登録法に違反するとして起訴された。

2. 争点/論点

・外国人登録法が定める指紋押捺制度は憲法13条、14条、19条に違反するのか?

3. 条文

条文

憲法13条
・すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法14条1項
・すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法19条
・思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

4. 最高裁判決

4.1. 外国人登録法が定める指紋押捺制度が憲法13条に違反するのか

指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが性質上万人不同性終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある

このような意味で、指紋の押なつ制度は、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。

憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される。

しかしながら、右の自由も、国家権力の行使に対して無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは、憲法13条に定められているところである。

そこで、外国人登録法が定める在留外国人についての指紋押なつ制度についてみると、同制度は、昭和27年に外国人登録法(同年法律第125号)が立法された際に、同法1条の「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性も肯定できるものである。

また、その具体的な制度内容については、立法後累次の改正があり、立法当初2年ごとの切替え時に必要とされていた押なつ義務が、その後3年ごと、5年ごとと緩和され、昭和62年法律第102号によって原則として最初の1回のみとされ、また、昭和33年律第三号によって在留期間1年未満の者の押なつ義務が免除されたほか、平成4年法律第66号によって永住者(出入国管理及び難民認定法別表第二上欄の永住者の在留資格をもつ者)及び特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特号永住者)につき押なつ制度が廃止されるなど社会の状況変化に応じた改正が行われているが、本件当時の制度内容は、押なつ義務が3年に1度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、加えて、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法としても、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる

右のような指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項、18条1項8号が憲法13条に違反するものでないことは当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかであり、所論は理由がない。

4.2. 外国人登録法が定める指紋押捺制度が憲法14条に違反するのか

所論は、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の前記各条項は外国人を日本人と同一の取扱いをしない点憲法14条に違反すると主張する。

しかしながら、在留外国人を対象とする指紋押なつ制度は、前記のような目的、必要性、相当性が認められ、戸籍制度のない外国人については、日本人とは社会的事実関係上の差異があって、その取扱いの差異には合理的根拠があるので、外国人登録法の同条項が憲法14条に違反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかであり、所論は理由がない。

4.3. 外国人登録法が定める指紋押捺制度が憲法19条に違反するのか

所論は、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の前記各条項は外国人の思想、良心の自由を害するもので憲法19条に違反すると主張するが、指紋は指先の紋様でありそれ自体では思想、良心等個人の内心に関する情報となるものではないし、同制度の目的は在留外国人の公正な管理に資するため正確な人物特定をはかることにあるのであって、同制度が所論のいうような外国人の思想、良心の自由を害するものとは認められないから、所論は前提を欠く。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有し、当該自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ。

指紋の押なつを強制されない自由は無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受ける

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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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