憲法

【重要判例】早稲田大学江沢民講演会事件

1. 事件の概要

早稲田大学を設置する学校法人は、平成10年7月下旬ころ、中華人民共和国の国家主席の講演会を開催することを計画し、警視庁、外務省、同大使館等と打ち合わせた上、同年11月28日に早稲田大学の講堂において同主席による本件講演会を開催することを決定し、同大学の学生に対し参加を募った

本件講演会の参加の申込みは、名簿に、希望者が氏名等を記入してすることとされた。本件名簿に氏名等を記入して本件講演会に参加を申し込んだ学生に対しては、参加証等が交付された。上告人らは、早稲田大学の学生であり、本件講演会への参加を申し込み、本件名簿にその氏名等を記入して、参加証等の交付を受けた

早稲田大学は、本件講演会を準備するに当たり、警視庁、外務省、中華人民共和国大使館等から、警備体制について万全を期すよう要請されていた。そこで、大学職員、警視庁の担当者、外務省及び中華人民共和国大使館の各職員らの間において、平成10年7月下旬ころから、数回にわたり、打合せが行われた。その中で、同大学は、警視庁から、警備のため、本件講演会に出席する者の名簿を提出するよう要請された

このような要請を受けて、大学は、内部での議論を経て、本件講演会の警備を警察にゆだねるべく、本件名簿を提出することとした。そこで、総務部管理課において、本件名簿の写しを、大学の教職員、留学生、プレス関係者等その他のグループの参加申込者の各名簿と併せて、警視庁戸塚署に提出した

大学は、このような本件名簿の写しの提出について、上告人ら同意は得ていない

上告人らは、本件講演会に参加したが、講演中に座席から立ち上がって「中国の核軍拡反対」と大声で叫ぶなどしたため、私服の警察官らにより、身体を拘束されて会場の外に連れ出され、建造物侵入及び威力業務妨害の嫌疑により現行犯逮捕された

その後、上告人らは、本件講演会を妨害したことを理由として大学からけん責処分に付された

上告人らが、被上告人に対し、違法な逮捕に協力し無効なけん責処分をしたことを理由とする損害賠償同処分の無効確認並びに謝罪文の交付及び掲示を求めるとともに、被上告人上告人らを含む本件講演会参加申込者の氏名等が記載された本件名簿の写しを無断で警視庁に提出したことが、上告人らのプライバシーを侵害したものであるとして、損害賠償を求めて訴訟を起こした。

2. 争点/論点

江沢民の講演会参加者の名簿を、参加者の許可なく警察に提出する行為はプライバシー侵害となり違法となるのか?

3. 条文

条文

憲法13条
・すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

4. 最高裁判決

本件個人情報は、大学が重要な外国国賓講演会への出席希望者をあらかじめ把握するため、学生に提供を求めたものであるところ、学籍番号氏名住所及び電話番号は、大学個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない

また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。

しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。

このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。

本件講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集した大学は、上告人らの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ、同大学本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては、本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく、上告人らに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は、上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、上告人らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・秘匿されるべき必要性が必ずしも高いとは言えないものでも、プライバシー情報として保護対象となる。

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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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