憲法

【重要判例】前科照会事件

1. 事件の概要

自動車教習所に勤務していたXは解雇され、当該解雇を巡る訴訟を起こした。これを受けて自動車教習所側の弁護士が、京都市区役所Xの前科及び犯罪経歴の照会請求をし、区役所はXに前科がある旨を回答した。これに対しXは、当該回答はプライバシー侵害であるとして、損害賠償と謝罪文の交付を請求した。

2. 争点/論点

・弁護士からの前科有無の照会に対して区役所が回答することはプライバシー侵害にあたるのか?

3. 条文

条文

憲法13条
・すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

4. 最高裁判決

前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであって、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。

前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。

本件において、原審の適法に確定したところによれば、京都弁護士会が訴外弁護士の申出により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を必要とする事由としては、右照会文書に添付されていた弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあったにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、中京区長の本件報告を過失による公権力の違法な行使にあたるとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる

補足意見

伊藤正己裁判官の補足意見

他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであっても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。このことは、私人による公開であっても、国や地方公共団体による公開であっても変わるところはない。国又は地方公共団体においては、行政上の要請など公益上の必要性から個人の情報を収集保管することがますます増大しているのであるが、それと同時に、収集された情報がみだりに公開されてプライバシーが侵害されたりすることのないように情報の管理を厳にする必要も高まっていると言ってよい。近時、国又は地方公共団体の保管する情報について、それを広く公開することに対する要求も強まってきている。しかし、このことも個人のプライバシーの重要性を減退せしめるものではなく、個人の秘密に属する情報を保管する機関には、プライバシーを侵害しないよう格別に慎重な配慮が求められるのである。

本件で問題とされた前科等は個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、その秘密の保護がはかられているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘匿されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であっても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限って公開しうるにとどまるのである。このように考えると、人の前科等の情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務が課せられていると解すべきである。

本件の場合、京都弁護士会長の照会に応じて被上告人の前科等を報告した中京区長の過失の有無について反対意見の指摘するような事情が認められるとしても、同区長が前述のようなきびしい守秘義務を負っていることと、それに加えて、昭和22年地方自治法の施行に際して市町村の機能から犯罪人名簿の保管が除外されたが、その後も実際上市町村役場に犯罪人名簿が作成保管されているのは、公職選挙法の定めるところにより選挙権及び被選挙権の調査をする必要があることによるものであることを考慮すれば、同区長が前科等の情報を保管する者としての義務に忠実であったとはいえず、同区長に対し過失の責めを問うことが酷に過ぎるとはいえないものと考える。

5. ポイントとなる事項

ここがポイント

・ 前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等ある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する。

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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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