刑法

【重要判例】米兵ひき逃げ事件

1.事件の概要

被告人である米兵普通自動車を運転中被害者をはね飛ばし、そのまま逃走した

衝突発生地点から約4km走行した後に、助手席の同乗者自動車の屋根に被害者がいることに気づき自動車の屋根から引きずりおろしてアスファルトで舗装された路面に転落させた

被害者脳内出血等で死亡したが、死因となる傷害の発生自動車と衝突した時点のものであるか自動車の屋根から引きずり下ろした時点のものであるか不明であり、当時運転手であった被告人の行為被害者の死の結果因果関係の存否が争点となった。

2.争点/論点

・被害者の死因となった頭部の傷害が、自動車と衝突した際に生じたものなのか、同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり下ろした際に生じたものであるのか?
 ⇒業務上過失致死罪が成立するのか。

3.条文

条文

刑法第211条
・業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

4.最高裁判決

被告人は、普通乗用自動車を運転中、過失により、被害者が運転していた自転車に自車を衝突させて被害者はね飛ばし、同人は、被告人の運転する自動車の屋根にはね上げられ、意識を喪失するに至ったが、被告人は被害者を屋上に乗せていることに気づかず、そのまま自動車の運転を続けて疾走するうち、前記衝突地点から4km余をへだてた地点で、右自動車に同乗していたがこれに気づき、時速約10kmで走っている右自動車の屋上から被害者の身体をさかさまに引きずり降ろし、アスフアルト舖装道路上に転落させ被害者は、右被告人の自動車車体との激突および舖装道路面または路上の物体との衝突によって、顔面、頭部の創傷、肋骨骨折その他全身にわたる多数の打撲傷等を負い、右頭部の打撲に基づく脳クモ膜下出血および脳実質内出血によって死亡したというのである。

この事実につき、原判決は、「被告人の自動車の衝突による叙上の如き衝撃が被害者の死を招来することあるべきは経験則上当然予想し得られるところであるから、同乗車Aの行為の介入により死の結果の発生が助長されたからといって、被告人は被害者致死の責を免るべき限りではない。」との判断を示している。

しかし、右のように同乗者が進行中の自動車の屋根の上から被害者をさかさまに引きずり降ろし、アスフアルト舖装道路上に転落させるというがごときことは、経験上、普通、予想しえられるところではなく、ことに、本件においては、被害者の死因となった頭部の傷害最初の被告人の自動車との衝突の際に生じたものか同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり降ろし路上に転落させた際に生じたものか確定しがたいというのであって、このような場合に被告人の前記過失行為から被害者の前記死の結果の発生することがわれわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない

したがって、原判決が右のような判断のもとに被告人の業務上過失致死の罪責を肯定したのは、刑法上の因果関係の判断をあやまった結果、法令の適用をあやまったものというべきであり、被告人の刑責業務上過失傷害にとどまる

補足

本判決は、最高裁で初めて相当因果関係説を採用した判例と解されている。

また、上記最高裁の判断に対しては実行行為自体(今回の場合は衝突事故)に結果発生(被害者の死)の危険性があったとしても、実行行為後の因果経過(同乗者が引きずりおろして傷害を負わせること)に予測可能性がないことから実行行為と結果の因果関係が否定されることとなるが、法益保護の観点から不当であるとの批判がある。
⇒帰責範囲を適正にするため、「危険の現実化説」という新たな判断枠組みがある。

5.ポイントとなる事項

ここがポイント

・被告人が過失により事故を発生させた行為と、被害者の死の結果に因果関係(法的因果関係)を認めることが出来ないため、業務上過失致死罪は成立しない。

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  • この記事を書いた人

徳山 紗里

弁護士。京都女子大学法学部の卒業生で初の司法試験合格。 幅広い分野で弁護士の活動をしております。 詳細は私個人のホームページを参照ください。

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